Crystals of snow story

**Coffee with milk**

秋人&渚

「・・・・ぅん・・・・・・」

なんだか、肌寒くて、傍にある暖かなものにするりと身体を寄せた。

なめらかな肌触りのそれは、ふんわりと僕を包み込んでくれる。

『なぎさ・・・・』

聞き覚えのある声が遠くから僕を呼び、まどろみから少しずつ呼び覚まされていくのがわかる。

「ん・・・まだ眠いよ・・・・・も、すこし・・・」

ごぞごそと身体を丸めて、暖かなものにさらに身体を寄せた。

「そりゃ・・・俺はお前がいいっていうんなら、いいんだがな・・・」

ちょうど頭のてっぺんにあたる位置から、困ったような呟きが聞こえてきた。

呟きと一緒に力強い腕が僕を暖かいものにぐっと引き寄せてくれる。

「今更、帰るって言っても帰さないからな・・・・・・・」

掠れた声が耳朶を掠めて、首筋に柔らかな感触が降りてきた。

「帰る・・・・・・って、どこに・・・?」

覚醒しきっていない意識の中でさえ、何度も首筋に触れる、柔らかな感触が僕の身体に電気を走らせた。

ゆっくりと開いた瞼の先に、大好きな秋人の琥珀色の瞳を見つけて、僕は幸せな夢だなとにっこり笑った。

「このままでいいんだ、このままここで眠って、渚・・・・・・・」

このまま、今は放したくない・・・・・・・

微かな呟きが、再び眠りに落ちかけて、ポヤンと瞼を閉じた僕の耳に届いた。

************

パッ!と目を開けたら、うっすらと外が明るい。

枕元の目覚まし時計は6時を少しすぎている。

広いベッドルーム、僕の横には枕に顔を埋めてはいるが、見まごうことのない秋人の大きな身体。

「う・・・うわぁ〜!!!!」

どうしょう!!!!!

「ふわぁ〜〜、どっした、渚?」

僕の叫び声に起こされた秋人は、あくびをかみ殺して大きく伸び上がる。

黒っぽい幾何学模様をしたフェザーの上掛けがはらりと落ちて、綺麗に筋肉が付いている逆三角形の見事な裸身が現れた。

水着姿をイヤと言うほどお互いに見慣れてるはずなのに、ベッドの中で見る秋人の上半身はやけに色っぽくて、僕は上掛けをしっかりと身体に巻き付けながら、秋人から目を逸らした。

俯いたものの、昨日の出来事が鮮やかに蘇ってきて、胸の動機がちっとも収まらない・・・・・

昨日は急に新しいコンポを買いたいからつき合ってくれと秋人に言われて、珍しく千波抜きの買い物に出かけ、そのままこの部屋に買ったばかりのコンポを持ち帰った。

『荷物が大きくなるから、ちーちゃんは悪いけど連れてこないでくれないか』

電話越しに秋人はそう言ったんだ。

秋人からそんな言葉を聞くなんて思ってもいなかった僕は、千波には悪いけど、正直すごく嬉しかった。

僕は・・・・・・・飢えていたのかもかもしれない、秋人のキスに・・・・・・力強い腕に・・・・・・・

だから・・・だから・・・・・あんな・・・

カァァアアああああああ・・・・・・・

羞恥に穴があったら入りたい。。。

「可愛かったよ、渚・・・」

いつの間にか僕を覗き込むような位置に秋人がいた。

「ありがとう」

僕の髪にそっと口づけが降ってきた。

「・・・・あきと?」

お礼・・言われるようなことじゃ・・・・・・・ますます顔に血が上る。耳たぶが熱い。

「お前と夜明けのコーヒーが飲めるなんて、思ってもなかったよ・・」

ぇ?夜明けのコーヒーってなに・・・?

心の中で突っ込みを入れてたら、後ろから抱え込むように抱きしめられた。長い腕で包み込むように優しく。

なんだかとってもあったかいや・・・・・

「どうしよう・・・・無断外泊なんか初めて・・・」

「俺が晄さんに謝ってやるって」

「よけいやばいよ〜それ・・・・」

「いっそのことカミングアウトしちまおうか?」

クスクスと耳元で笑う。

「もう、笑い事じゃないだろぉ」

「俺はかまわないよ、半端な気持ちで一緒に朝なんか迎えない」

ちょっと・・・・・それって

「秋人が言っても信用ないよ、それ」

覚えている、何度も気づいた女の人の影・・・このベッドにだって一緒に入ったのは決して僕だけじゃない・・・・・あの頃のことを思い出すとチリリと今も胸は小さく痛む。

「俺、モーニングコーヒー飲むのはお前だけって決めてたから」

「さっきから何?そのモーニングコーヒーって?」

「愛し合った翌朝に、ベッドで飲むコーヒーのことさ」

「はぁ??じゃぁ今までは誰ともコーヒー飲まなかったの?」

「ああ、それに今までしてたのはSEXだから」

愛し合ってた訳じゃない。

僕の首筋にふわっと柔らかな巻き毛が触れ、秋人が肩に顔を埋めた。

大きな手が僕の身体をゆっくりと撫でる。ゆうべの名残りをなぞるように。

「や・・・やめっ・・てよ」

途端に弾みだした息ごと唇が奪われて、思わず身体を捻って縋り付いた。

「コ、コーヒー、い、入れてくれるんじゃなかったの?」

「愛し合った後にって言っただろ?」

いたずらっ子のように秋人の瞳が輝きを増した。濡れた紅い唇は文字通り、ぞくりとするほど艶めかしい。

「後でね、たっぷりミルクを入れてやるよ、甘くてあったかいお前みたいなコーヒーを・・・・」

抗議を唱えようにも、僕の言葉は秋人の熱い口づけに封じ込められてしまった。

とろけるほど熱くて、くらくらするほど甘いのは、秋人の方だよと言いたかったのに・・・・・・

                                 〈END〉

昨年「光の中でほほえんで」の連載中に、あまりにも痛くて、逃避した先がこの作品でした〈笑〉反動で、激甘、砂はきそうなほど、でろんでろんです〈笑〉

あの時裏にいけなかった方、あるいは新しいお客様、良かったら楽しんでやってください。。

 

Q  

  

このお話はふたりの初めての朝のことですか?
二人で迎えるのは初めての朝ですが、そういう間柄になったのは違います〈笑〉Sweet baby sweetが春のお話ですよね?これは、その年の初秋、少し肌寒いころを設定しています。

やっと、両想いが確認できた秋人ですから、渚の風疹が治った少し後に何らかの方法を取ったのものだと思いますが〈笑〉