Crystals of snow story
*宣戦布告にご用心*
秋人&渚
裏500キリ番記念作品
『でさ、今度の日曜日に、一緒に食事に行くように誘いないさいって言われたんだ』
あの風疹騒ぎから一週間経った夜、渚からお誘いの電話があった。 そりゃ、もちろん、渚からの誘いがいつ来るかと待ちわびてはいたが、家族そろってのお食事会なんて、ちょっと酷すぎやしないか? 『秋人にはすごくお世話になったって、母さんも父さん恐縮しちゃっててさ、どうしてもお礼がしたいんだって』 屈託のない明るい声が手にしているコードレスフォンの子機から聞こえてくる。 お礼ねぇ・・・・・・ 俺はもっとほかの形の礼ならいくらでもして欲しいけどね。 渚に聞こえないように、ふぅ〜っと、俺は長い息を吐く。 渚たちを看病をして、帰国した晄さんに二人を引き渡したあとマンションに帰ってきた俺は、毎日数ある誘いを全部断って、お前からの電話を待ち受けていたっていうのに・・・・ 俺たちすんでの所で、お前が熱だしておじゃんになったんだぞ? それなのに初めての電話がお食事会のお誘い? いったい、何考えてるんだか・・・ あれからずっと、悶々としてたのは俺だけってことか? なんだか、無性に腹立たしい。 いきり立ったままの想いを宥め賺して、真面目にマンションに鎮座してた俺は単なる間抜けみたいじゃないか・・・ 『ねぇ、秋人訊いてる?美味しいもの一杯おごってもらちゃおうね♪』 弾む声が俺の耳に届き、嬉しげな渚の可愛い顔がパッと目の前に浮かぶと腹立たしげに寄せていたはずの眉が自然に緩む。 うーーっ。。。 俺の負けか・・・・・ お礼なら、俺じゃなくて柏木にするべきじゃないのか?と喉元まで出かけたが、ここは惚れたものの弱みで、仕方なく頷いた。 「ああ、わかったよ」 わざと少し不機嫌に応えたのに、相変わらず鈍感な渚は、じゃぁ、6時に父さんの車で迎えに行くからねと電話を切ってしまった。 まったく・・・・ やっと、お互いの想いが通じ合い、さあこれから愛し合おうって時に、あんな風にちゃらにして、直ったら普通、俺の胸に飛び込んでくるのが当たり前なんじゃ無いのか? いつまでたっても恋人らしくならない恋人に、俺は切ない溜息をついた。 ☆★☆ 「秋人〜!」 約束の6時にエントランスへ降りた俺を熱烈歓迎の体で渚が迎えに来てくれた。 止まっていた車の脇から俺に向かって走ってくる渚が愛しくて、つい両手を広げかけたが、渚の肩越しにキラリと光る琥珀色のトパーズを見つけて、俺は熱い抱擁を断念した。 冷ややかな瞳が、車のフロントガラス越しに俺を捉える。 俺もつい、意地になって、正面から見つめ返すのだが、どうしても俺の方が分が悪い・・・・・・ 恋敵だというのなら、蹴落としてもやるし、渚に二度と近づかないように脅してもやれるのだが、いかんせん、実の親子だというのだから引き離しようもない・・・・・ まして、渚は異常なほどのファザコンだ。 俺が真澄さんのことを毛嫌いしてるなんて知ったら、切られるのは間違いなく俺のような・・・・気がする・・・・・・ んっとに。 なんて情けない話なんだ・・・・・ 「こんばんは、お、ちーちゃん、元気になったか?」 気まずい雰囲気を打破するには、動物と赤ん坊が一番だ。
後部座席に乗り込みながら、助手席で晄さんの腕の中にいた、ちーちゃんに声を掛けた。 「あ〜ちゃん」 ちーちゃんも、嬉しそうに俺のほうに身を乗り出して来たので、腕を伸ばしてひょいっとシートの隙間から後部座席に移動させた。 「本当に助かったわ。その節はありがとうね、秋人くん」 晄さんは、惚れきっている旦那に俺が似ているせいかやたらと俺に愛想がいい。 俺も渚にそっくりな晄さんの事は大好きだ。 もちろん、今腕の中にいるちーちゃんも目の中に入れても痛くないほどかわいい。 だが、渚を手に入れる為の最大の難関は俺の真正面でハンドルを握っている水谷真澄氏その人なのだ。 「本当に、君には千波も渚も色々とお世話になっているようだね」 緩やかに車を発進させた真澄さんは後ろを振り返ることなくにこやかに言った。 俺の気のせいかにこやかな口調ながら『色々と』を少し強めに言いはしなかったか? 「いえ、ちーちゃんも渚も俺にとって大事な相手ですから」 負けじと、言葉を返したら、ルームミラー越しにチロリと意味ありげに見つめ返された。 俺はまたしても意地になってミラーから目を逸らさない。 もちろん、本気で真澄さんが嫌いなわけじゃない。 美形で、お洒落で、金持ちで、普通なら嫌味にさえなるだろう、西洋仕込みの身のこなしすら、まったく気にならないほど身に染みついている、ダンディな人なのだ。 普通憧れこそすれ、嫌ったり出来ない、そんな人。 俺がこの人に反発するのは、最初、渚の恋人かと勘違いしてたって事も大きな要因ではあるが、ほんとの所は心のどこかで負けを認めている自分がいるからだと思う。 渚が俺と真澄さんを思う重さの違いもそうだし、もちろん生きてきた年数が違うのだから経験してきた人生の重みも違う。 情けないがこの人に比べたら、まだひよっこの俺は、大人の男としての出来が違うのだ。 もちろん、同じ土壌に立つわけじゃない。 俺は渚の親父になりたいんじゃなくて、ちゃんとした恋人、いつかは伴侶になりたいと思っているんだから。 そんなことを考えながら黙り込んでちーちゃんを抱いていると、開いている左手の指におずおずと渚の指が絡んできた。 ミラーから目を離し、驚いて渚を振り返ると、不安そうな顔で俺の顔をじっと見つめていた。 『どうせ、どうせ僕なんか千波以下なんだから!!』 あの日の言葉と渚の不安そうな瞳の色が重なる。 俺が、ちーちゃんを抱いたまま、渚の方を見ないから? だから、そんな不安そうな目で俺を見てるのか? クスッと笑い返し、後部座席のシートの上のみんなから見えない死角で俺がギュッとその指を握り込むと、渚は、花が咲くようにパッと破顔した。 バカだな。 俺も渚も・・・・・ 妬いても始まらない相手に妬くなんて・・・・・ 何も隠すことも肩肘張ることもない、渚を誰にも渡す気なんかないんだから。 「晄さん、ごめん、ちょっと、ちーちゃんいい?」 俺は助手席の晄さんにちーちゃんを戻し、さりげなく渚の背に腕を廻した。 駄目だよ・・・と言いたげに見上げてくる渚の瞳が可愛くて、俺は素知らぬふりでそのまま、渚の背を抱いていた。 したり顔の視線がまたもやバックミラーから俺に注がれたけど、こればっかりは譲れない。 戦線布告だよ、真澄さん。 渚は俺が貰うから。 END |
秋人視点、甘アマで真澄パパを出して・・・・・・・と言うリクだったんですけど・・・
スミマセン(><)じぇんじぇん、甘く無いです。。。
でもなんか、目に見えない火花が散ってそうで〈笑〉真澄パパの気持ちも訊いてみたいですよね(^-^)