Crystals of snow story
*願い事ひとつ*
アンケート御礼ベリーショート
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薄闇の中、軽くリズミカルにかかる吐息に、僕を包み込むしっとりと滑らかな肌の暖かさに、僕は言いようのない幸せを感じる。
明け方、夏の早い朝日が白々とビル群の果てを照らし出す頃、僕はスルリと啓士の腕から抜け出して、起こさぬように慎重にベッドからおりると、シャワールームでゆっくりと湯にあたり、醒めきらない頭をスッキリとさせる。
一緒に暮らすなら、夜は必ず一緒に居て欲しいと言った僕の我が儘に啓士は優しい笑顔を浮かべて「安心して、未知さんを一人になんかさせない」と約束をしてくれた。
その僕の我が儘のせいで、啓士は早朝からバイトに出かけ、大学の合間にまたバイト戻り、夜の8時は必ず帰宅してくれる。
遊びたい盛りの未成年・・・・・そんなことを忘れてしまうほど、彼は僕を優しく包み込んでくれている。
いけない、いけないと思いながらも、僕はつい、そんな彼に甘えてしまう。
こんな僕を、いつまで彼は愛してくれるのだろうか。
いつまで続くかはわからない、砂上の城のようにもろい関係だとしても、僕は啓士の傍で微笑んでいたい。
いつか、彼が僕を必要としなくなるその日まで・・・・・・・
その日が来たら、僕はにっこりと笑って、彼の手を離して上げよう、僕が彼の枷にならぬよう。
彼が自由に羽ばたけるように・・・・・・・・・
だからどうか、その強さを僕にください。
いつか訪れる、その日のために。
きっちりと服に着替え、コーヒーメーカーをセットし、簡単な朝食を用意し終えると僕は啓士の眠るベッドに戻り、軋ませないようにそっと腰を下ろす。
起こさなければならない時間までのほんの数分間、あどけない寝顔に見入る僕は時折胸を締め付けられそうになる。
昼間や夜に見せる、しっかり者の啓士の顔が、眠っている間だけ、無防備な幼い少年に戻る。
僕より4つも年下の愛しい人・・・・・・・・
護れる力が欲しい。
啓士に護られ、愛されるだけの間柄じゃなく、対等にお互いを護りあえる本当の恋人になりたい。
そうすれば、今より少しでも長く、君の傍にいることが出来るかもしれないから。
微かに開いた啓士の唇に、僕は願いを込めてゆっくりとくちずける。
僕に強さをくださいと・・・・・・・
朝日の射し込む、小さなキッチンから僕たちのいるベッドルームまでコーヒーの芳しい香りが漂い、起こさねばならない時間を告げた。
僕は柔らかな唇の感触の名残を惜しみながら、まだ規則正しい寝息を立てている啓士の肩をそっと揺すった。
幸せと切なさを同時に呼び覚ます啓士の笑顔とともにまた新しい一日が始まり、まだ始まったばかりの僕達の歴史を新たに刻む。
35553のキリリクで、未知を指定してくださったおりのベリーショートです。対話式のキリメールは未知では無理なので、書かせていただいたんですが、なかなかサイトに載せる機会がなくて〈笑〉
何の変哲もない静かな話ですが、その後の二人の雰囲気がでていればいいなと思っています。
氷川 雪乃