Crystals of snow story

ある夜の出来事

後編

【光の中で微笑んで】番外編

 

 

「よういち・・・」

洋一に組み敷かれたまま、遙は震える声で洋一の名を呼んだ。

声は微かに震えてはいるが、その幼い表情に恐れはなく、むしろ遙のシャツに指をかけている洋一の指の方が余裕なく震えていた。

「何・・・・・・してるの?」

「今夜、遙を僕の、僕だけのものにする。
誰にも渡さない、これから僕がすることはとても大事な事なんだ。
だから遙は僕の言うとおりにして、いいね?」

遙は硬い表情のままそんな事を言う洋一の顔を不思議そうにじっと見上げて、ふわっと微笑んだ。

「僕のこと、嫌いじゃない?」

念を押すように、もう一度、遙は洋一にきいた。

「嫌いなわけないじゃないか・・・・・愛してるよ、遙。
これからもずっとだ」

「うん・・・・・わかった。
洋一の言うとおりにする」

これから自分の身に起こることを理解してはいないのだろか?

遙は屈託なく微笑んだ。

睫毛にはさっきの涙がまだ露になってひかりを放っている。

洋一はそっと涙を吸い上げ、そのまま頬から首筋に唇を這わした。

指先の震えはもう止まり、器用にシャツを剥がしていく。

「くすぐったい・・・・」

クスクス笑いながら身を捩る遙のからだを洋一は自分の身体の重みでベッドに押しつけた。

唇は徐々に軌跡を白い肌に付けながら、胸にある薄紅色の印にたどりく。

「あ・・・」

嘗め上げられて、遙のからだがピクンと跳ね上がり、さっきまでただ薄紅色をしていただけの印が小さく尖る。

洋一はその尖りを入念に吸い上げた。

「は・・・・・ん」

遙の細い腕が洋一の身体を無意識に引き放そうとする。

「ダメだよ・・・・・言うとおりにするって言っただろ?」

顔を上げて、そう言うと洋一は濡れたその尖りを指でゆっくりと愛撫し始めた。

イヤイヤと首を振りながらも、遙は身体を洋一にすり寄せてくる。

いくら記憶をなくしてはいても、身体は正直だ。

初めての経験のはずなのに、身体はこの感覚を覚えているのだろう、もっともっと、なにかが足らない・・・・・・・

洋一にそのなにかを満たして欲しくて遙は苦しげに喘いだ。

「遙・・・・・熱くなってる・・・・」

無意識に押しつけてる熱を、洋一は優しく手のひらに包み込んだ。

「洋一・・・洋一・・・」

どうして欲しいのかが分からなくて、遙は泣き出しそうな声で、洋一の名を繰り返し呼びながら、しがみついていた。

「遙、ちょっと離れて・・・・」

「いやだ・・・・離しちゃイヤ」

「なんか取ってこないと・・・何も用意してないから、ちょっと待って、ね」

困った顔でそう言う洋一を、訳の分からない遙は不安で堪らないといった目で見上げた。

「そんな目で、見つめたら、むちゃくちゃにしちゃうよ。
イイコだからちょっとだけ待って・・」

緩く笑った洋一はベッドから降りて、部屋を出ていくと1分もしないうちに戻ってきた。

ベッドではさっきと同じ場所で遙が裸のままコロンと膝を抱えて丸まっている。

胎児みたいな形で丸まっている遙を見た途端、洋一は思った。

ああ、きっと、今夜遙は生まれ変わるんだ、と。

 

「な、なに?」

身体を反転させられた遙が突然の冷たさに身体を硬直させた。

その強張りを解きほぐすように、洋一は入念にクリームを塗り込んでいく。

「あ・・・・や・・・・・」

「大丈夫だから、少しだけ我慢して・・・・ね」

「う・・ん。・・・・・は・・ぁ・・・・ん」

枕に押しつけられた唇から、切なげな吐息が漏れる。

苦しそうな遙の表情に洋一は自分でも無責任だと思う。

受け入れるということがどんなものなのか知らないのに、口先だけで遙の緊張を解こうとしているのだから。

それでも、今夜はどうしても遙とひとつになりたかった。

遙の記憶と同じように遙の身体からも過去の記憶を消し去るために。

生まれ変わった遙を、自分だけのものにするために。

「遙が欲しい」

苦しそうに喘いでいた遙の声に甘い艶が混じり始めるのを見届けると、洋一は虚ろな遙の目を覗き込んで言った。

「いいね。僕は遙かの中に入りたい。
ひとつになりたいんだ」

遙がこくりと頷くと同時に、ゆっくりと洋一は背後から覆うように身体を進める。

「あ・・・・・・あぁ・・・」

ぎゅっとシーツを握りしめた遙かの拳を、洋一は大きな手のひらで包み込んだ。

「よ・・・洋一・・・・・洋一?」

自分を抱いているのが誰なのか確かめるように、遙は苦しい息の中で洋一の名を呼んだ。

「そうだよ、僕だよ。愛してる・・・遙」

「僕も・・・・・・・・・・・・・」

しっかりと抱きとめられながら二人はひとつに溶け合っていった。

 

*:.。.☆.。.:*

 

「朝帰りどころか、夜帰りじゃない、心配させて悪い子ね」

マンションに入るなり、言葉とは裏腹に優しい声で里佳子が二人を迎えた。

「ごめん、姉さん」

「ご、ごめんなさい・・・・・」

「良いわよ。それより、遙ちゃん、座った方が良いわ。
疲れてるでしょう?」

里佳子のさりげない突っ込みに、洋一の方が真っ赤になった。

ただ単に、出かけて疲れたんだろうと言われたと思ったのか遙は素直に頷くとソファーに向かって歩いていく。

「なんだか、娘を嫁に出す、父親の心境が分かるような気がするわ」

洋一を引き留めてキッチンへ誘いながら里佳子がほぅ−ッと溜息をついた。

「部屋が見つかったら、二人で暮らそうかと思ってるんだ」

「そう言うだろうなって思ってたわ」

「反対?」

「反対はしないけど・・・・・洋一がいない間が心配なのよ。
だって、あの子中身はまだ14よ?そりゃ、見かけはどう見ても立派な大人だけど・・・・・・・・
詮索するようだけど、昨夜は大丈夫だったの?
無理やりなんてしてないでしょうね?」

急に怖い顔で、里佳子は洋一をジロリと睨んだ。

「む・・・・・無理矢理なんて・・・・・
そりゃ、ちょっと強引だったかもしれないけど・・・」

「はぁ・・・・もう、仕方ないわね、男って」

「ごめん・・・・・・」

「この近くで住むなら、譲歩しても良いわよ」

「え、ほんと?
サンキュー姉さん。大好きだよ」

パッと顔を輝かした洋一に、

「はいはい、今更洋一に好かれたってねぇ」

やれやれと微笑みながら肩をすくめた里佳子は、リビングにいる遙に声をかけた。

「遙ちゃ〜ん、今夜、洋一と一緒に焼き肉でも食べに行こうか?」

「わーい、焼き肉?やったぁ!!」

リビングから屈託のない遙の明るい声が返ってきた。

その明るい声に、里佳子と洋一は顔を見合わせて微笑んだ。

 

〈終わり〉

遙を引き取ってから、6年の歳月が流れて、やっと結ばれたわけですよねぇ。

お坊ちゃんの洋一くん、気が長いわぁ(笑)

今後遙かに過去の記憶が戻ることがあるのかどうかは、氷川にもわかりません。

でも、彼がいつまでも光の中で微笑んでいられることを願っています。

既読の方もいらっしゃると思いますが、一言ご感想頂けると嬉しいです♪-♪♪

ご感想など何でちゃっ♪♪