Crystals of snow story
*送り火を灯して*
【光の中で微笑んで】番外編
「うわぁ〜綺麗だねぇ」
目の前の川に色とりどりの灯籠が流れていく。
少し遅めの盆休みを取った洋一は遙を母方の実家に連れてきていた。
有名な避暑地でもあるここでは毎年盆の終わりに灯籠流しが行われる。
ちょうど、盆送りにあたる今日は、灯籠流しの日で、都会育ちの遙は初めてみる風物詩に目を丸くしていた。
早めに来ていた里佳子と加藤は今朝早く東京へと帰っていったのだが洋一は遙にこれを見せたくて日程を組んだのだ。
「お盆に帰ってきていた霊をこの灯籠に載せて送り出して上げるんだよ」
洋一が目の前の川に流れる灯籠を指さしてそう言うと、
「霊?僕のお母さんたちも帰ってきてたの?」
「うん。そうだね。遙が幸せにしてるかなってね」
「じゃぁきっと、安心してるね、お母さん。僕とっても幸せだから」
遙はにっこりと笑って、
「あそこに売ってるの僕も流していい?」
洋一の肘を引きながら訊いた。
「ああ、いいよ。ご両親の分を買おうね」
「うん」
肩を抱きながら、観光客用に灯籠とろうそくを売っている屋台に行き、遙は綺麗なピンク色の灯籠を選んだ。
「綺麗な色だね、遙。お母さんたちもきっと喜ぶよ」
頷いて、川に戻りかけたはずなのに、遙がもう一度、振り返った。
なにかに引き戻されるように、つぃっと・・・・・
「洋一・・・も一個買っても良い?」
「え・・・?誰の分を買うんだい?」
「・・・・わからないの・・・でも、も一個買わないといけないの」
思い詰めた色を瞳に掃いて、遙はじっと洋一を見つめた。
あの人の分なんだね・・遙・・・・
なにも思い出さなくても、あの人はいつも君の心にいるんだね。
「いいよ。も一つ買おうね」
嬉しそうにありがとうといって、熱心にもう一つの灯籠を選び出した遙の背中を見つめながら、洋一は微かに沸き上がる嫉妬を胸の奥に封じ込めた。
馬鹿だな、僕は・・・・・・・
黄泉の国にいる人に嫉妬するなんて・・・
二本のろうそくに、炎を宿し、遙は順番にそっと、灯籠を水際に浮かべる。
二つの灯籠は前になり、後ろになり、ほのかな明かりを真っ暗な水面に揺らめかせながら、ゆっくりと流れていく。
「遙・・・・」
見送っていた遙の頬にはいつしか一筋の涙が光っていた。
洋一がそっと、抱き寄せると遙は小さな声で呟いた。
「いつか、またみんなに逢えるよね・・・」
「ああ、いつかね」
時を越えて、この川を越えて、いつか、また・・・・・
だから泣かないで・・・・・
「遙・・・愛してるよ」
その時まで、僕が君を守るから・・・・・
あの人に怒られないように、しっかりと守るから・・・・・〈END〉
あの人が誰だかは皆さん、よおくご存じですよね。
連載時、そりゃもう、氷川皆さんの抗議の声にビクビクでしたから(笑)
本編が未読のお客様は、是非、お読み下さい。暗いですけど・・・・本編。。。