Crystals of snow story
ちょっぴり大人な?チョコの味
慶&真奈
一ヶ月前から、今年はどこのチョコレ−トにしようかと、いろんなお店を学校帰りにくるくるくるくる廻ってた。
三年前は確かフォション。
一昨年はゴディバ。
去年はベルギ−王室御用達とかいう、ノイハウス。
お店はどこも、女の子たちで黒山の人だかりが出来てるけど、正直言ってどこもあんまり代わり映えしない。
「真奈ぁ〜〜ねぇ〜今日も買わないの〜」
たいてい放課後の買い物につき合ってくれてる奈津実がほとほとあきれ果てたように、あっちへうろうろ、こっちへうろうろしながら、チョコを決めかねている、わたしのブレザーを引っ張った。
「もうちょっと、まってよぉ〜」
奈津実のほうを振り返ることなくわたしの視線は綺麗にディスプレイされたガラス張りのショウィンドウの中を物色している。わたしの目の前には、金色のサテンの上に、プチサイズのチョコの詰め合わせが何種類も仲良くならんでる。
「いつも、こんなになやんだっけ?真奈ってさぁ、あげる人毎年一緒なんでしょ?」
奈津実は『やで、やで・・』と変なため息をついて、わたしの横に顔を並べた。「だってぇ・・・・・今年は特別なんだもん」
「特別?やだぁ、真奈ったら、なんか意味深♪」
奈津実は綺麗に整えてある眉をひょいっとあげて、にやっと笑うとわたしのわきを肘でつっついた。
「だってぇ・・・・」
両思いだって分かってから初めて迎えるバレンタイン。
慶にとってはどうってことなくても、わたしにとっては特別な日。
「おいおい、真奈くん。ほっぺが赤くなってるよ」
益々、にやにやと、奈津実に笑われて、わたしの頬はますます熱くなる。
そんなわたしに、奈津実が名案とばかりにもちかけた。
「特別なんだったら、手作りにすれば?男の子って案外、まずくても手作りによわいじゃない?」
「手作り?誰が作るのよ?」
「だれって、真奈に決まってるっしょ?」
わたしが、作るの??
慶に?わたしがぁ〜???
何でも出来る慶に何かを作ってあげようなんて、今まで一度も考えたことなかったけど、そういえば、高級品の有名どころのチョコより不格好な手作りのチョコレ−トをクラスの男子も毎年喜んでるよね?
そっか・・・・・・・
その手があったんだ。
「奈津実!製菓コ−ナ−どこだっけ?手作りキットとかって、確か売ってるよね?」
初めてでもちゃんと作れるように材料から包装紙までセットになってるのをこの間どこかでもみたもん。
「えっと・・・たしか地下にあったんじゃない?」
奈津実の返事を半分まできいて、わたしはエスカレ−タ−に向かって走り出していた。
☆★☆
『わるいけど、先に部屋で待っていてくれる?定時には帰れないとおもうけれど、8時頃までには帰れると思うから』
バレンタインが平日だったこともあって、わたしは合い鍵で慶の部屋に入った。2月は決算期だから、商社に勤めている慶は忙しいみたいで、バレンタインの約束を取り付けたときに、外で会うのは無理って言われちゃった。
わたし的には慶の部屋で、慶とふたりっきりのほうが嬉しいから、文句なんかないんだけど・・・・・・・
ここに、一人でくると、つい・・・・・悪い癖がでちゃうのよね。
自分の家みたいになじんだ部屋のソファ−に鞄とマフラ−と一緒に大事に持ってきたチョコを置くと、やっぱりじっとしていられなくて、膝がむずむず動き出す。しちゃいけないことだって・・・・わかってるけど・・・・
やっぱり、落ち着かない・・・・・・・
ドキドキしながらそっと、慶の寝室の扉を開いた。まだ、一緒に入ったことはないけど、一人でなら何度も入ったことのある慶の聖域。
一歩そこに踏み込むと、ふわっと、慶のフレグランスに体中が包まれて、抱きしめられているような錯覚に陥る。
その錯覚に胸の動機が喉までせり上がってきそう・・・・・
深く深呼吸を2.3度繰り返してから、ベッドの回りに視線を走らせる。
慶のものでない、何かが有りはしないかって・・・
見つけたら、泣いちゃうくせに。今、みつけちゃったら、きっと立ち直れなほど傷つくって分かってるくせに・・・・・・
もう今はないはずなんだから、慶を信じてるなら、こんなことしちゃいけないのに・・・・でも・・・・どうしても不安になる、それまでの不確かな恋人の陰だけじゃなく、たばこを吸わない慶の枕元に、3年前わたしは昔小さな陶器の灰皿を見つけたことがあったんだもん。
それからは、ここに来る度にたしかめてしまう。
再び、その場所に、あの灰皿がありはしないかって・・・・
そのときの置き場所に、近づいて、この三年間で何度目かのため息をホッとついた。
パチッ。
そのとき、パッと寝室の明かりが点灯した。
きゃっ!
「なにか、見つかったかしら?」
ドキドキと波打つ背中に、歌うような楽しげな慶の声。
「そぉう・・・・・真奈は、私がいないと、こうやって身辺調査をしてるわけね?」
ドキ・ドキ・ドキ・・・・
ど・・・どうしよう・・・・・
恥ずかしくて、顔も目の奥も熱い。
「信用ないわねぇ・・・・・・」
ちょっと、自嘲気味に慶が笑った。
そんなんじゃないって、叫びたいけど、今してる行動が疑ってる証拠だから否定することも出来なくて・・・・・
「あらあら?どうしたの、真奈?」
くるりと回り込んできた慶がわたしの顔をのぞき込んで、ちょっと呆れたように微笑んだ。
「だって・・・・・」
上目使いに見上げた慶の顔が涙でぼやけてる。
「泣くことないでしょう?」
「怒ってない?」
「そうね・・・・怒ってはいなけど、人の寝室を覗くなんて、あんまり良い趣味じゃないわよ、真奈」
わたしの背中を押すようにリビングに連れもどした慶は、後ろ手にパタンと寝室のドアを閉じた。
まだ、わたしの入る場所ではないといいたげに、かっちりとドアがしまる。
「慶の寝室しか覗かないもん!」
拒絶されたような気がした。たばこを吸う誰かは確かにあの部屋に迎え入れられていたのに、好きだっていってくれても、慶はあのあとも、わたしを寝室になんか誘ってくれない。
「慶が入れてくれないから、だから、わたし・・・・」
言葉を遮るようにそっと抱き寄せられて、慶の胸にしがみついた。
「真奈。甘い匂いがするわね?」
スッと慶の顔が降りてきて、わたしの首筋にクンっと顔を埋める。
「え?」柔らかな髪がまとわりついて、ビクッと身体が硬直した。
「チョコレ−トの匂いかしら?」
ゆっくりと、首筋をたどる慶の唇が微かに触れながら肩の方へとおりていく。
言葉が紡ぎ出す吐息に体中にゾクゾクッと何かが駆け抜けていく。
「チョ、チョコ・・・・今年は作ってみたの」
「真奈の手作り?嬉しいわ。あ、あれね?」
「ひゃっ!」
パッと嬉しそうに顔をあげた慶は、もう一度チュッと鎖骨の上にキスを落としてチョコレ−トの方に行ってしまったものだから、わたしはへなへなとその場に座り込んじゃった。
今日一日掛かって苦労して作ったトリュフを、ひとつつまみ上げた慶が形のいい唇にチョコを放り込んで、美味しいわと笑いながら振り返ったけど、わたしはしゃがみ込んだまま腰が抜けたみたいに動けない。
「あらら・・・今度はどうしちゃったの?」くすくすとチョコを口の中で転がしながら慶が笑った。
「だって・・・だって・・・・慶がぁ・・」
またしても涙目で見上げると、
「だから、まだ真奈には早いって言ってるでしょう」
意味深にそういって、慶はちらりと視線を寝室の扉に向けた。
うう・・・・悔しいけど、首筋にキスされただけでへたり込んじゃってるわたしって・・・・
「じゃ、ちょっとだけ大人のチョコをお返しに真奈にあげようかしらね」
「大人のチョコ?」
きょとんと聞き返したわたしの目の前にバラ色の慶の唇。
慶の甘く、激しいキスは、とろけるような大人のチョコの味がした。
+END+
過去バレンタイン企画時のものです、本当は表に並べたい【慶・真菜】カップルなんですが、なんせ百合ものなので・・・・・・やっぱり裏しか駄目ですよねぇ・・・・でも懲りずに第三弾書いてみたいです♪