Crystals of snow story

20年目の夏

[もう一度だけ、ささやいて]番外編

「研くぅん・・・も・・・僕・・だめ・・・」

ほんのりと汗ばんでピンク色に色づいた鈴の白い裸体が、俺の下で震えるような声で啼く。

細い指が枕元のシーツをギュッと掴んで、弓なりにそった身体は浜に投げ出された人魚のように幾度もベッドの上で小刻みに跳ねた。

そのたびにスプリングは俺たちを揺らし、その揺れにまた堪え切れないのか鈴が艶めいた嬌声を上げる。

俺は鈴を抱きしめながら、すっぽりと口の中に収まる柔らかな耳たぶをいたぶるように口に含みながら、愛の言葉をゆっくりと注ぎ混むように囁く。

歓喜の波にさらわれ、無意識に逃げる鈴の身体を押さえ込みながら、暖かな襞の中に埋めた熱い楔を、深く深く鈴の最奥に沈める。

「好きだよ、鈴・・・・・・・好きだ・・・」

何度言っても言い足りない・・・・

お前だけだった。
ずっとずっと・・・・
お前以外の誰もいらない。
俺が欲しかったのはお前だけ。

何年もの片思いを越え、
何度ものすれ違いを越えて、
手の中にしっかりと掴んだ、大切な大切な宝物。

何度、抱いても、抱いても抱き足らない・・・・・
貪っても貪っても飽き足らないほど、愛しくて・・・・・・・

俺は執拗に鈴を責め立てる。


「やっ・・・あ・・」

焦点の合わない瞳から透明な涙が幾筋も流れ落ちていく・・・・

俺だけに見せる鈴の淫蕩な表情に俺の身体はいくらでも煽り立っていく。

こんな鈴は絶対に誰にも見せない・・・・・・

俺だけの鈴・・・・・

俺だけの・・・・

「いい?感じる、鈴?」

「はっぅ・・・もう、だめ・・・・苛めないで・・僕・・もう」

「もっと感じて・・・・・鈴、俺を、俺だけを感じろよ・・・」

首を振り乱れる髪に、苦しげに寄せられた眉に、うわごとのように言葉を紡ぐ赤い唇に、俺の熱は一気に上り詰めていく・・・・・

鈴と一緒に何処までも高みに。


たった3日間の短い二人の夏休み、その間、俺たちは時間も忘れて何度も愛し合ったんだ。



「明日の朝、早いのか?」

枕に伏せるような形で、しばらく眠っていた鈴の瞳がゆっくりと開くのを待って、俺は尋ねた。

頬に掛かってる髪をそっと撫でつけてやると、くすぐったそうに身を捩って、俺ににっこりと微笑んだ。

相変わらずいくつになっても華奢で、体力なんか全然なさそうに見えるのに、鈴は俺よりずっと忙しい、だから俺が鈴と逢えるのは、月にたった2.3回しかないんだ。まして3日も一緒にいられるなんて、何ヶ月ぶりだったか。

大会社の跡取りとして勉強のために、世界を飛び回る鈴は結構ハードな毎日を送っていて、俺はと言うと、ごくごく普通に、それなりの会社に就職し、暇を持て余す土日には近所の小学生たちの集まるサッカーチームのコーチなんてしてるんだ。

一緒に暮らせばいいだろう。何やってんだ、お前たちは?って言う奴もいるけど、二人で生きていくために選んだ方法だから、悔いはない・・・・

寂しくないと言えば嘘になるけど、俺がわがままを言えば、こいつを苦しめるだけだって知ってるから。

だから、俺はここにいる。
鈴がいつ帰ってきても良いように、俺は俺たちが育ったこの町でいつもお前の帰りを待っていてやる。

一緒に暮らしたくないわけじゃない。

本音を言えば毎日一緒にいたい。

いつも側に置いておきたい。

鈴ちゃんをお嫁さんにしたい・・・・小さな頃からの俺の夢。

だけど、鈴は俺の嫁さんになれるわけもなく、俺は鈴以外の嫁さんを貰う気もないんだから、こうするのが一番良いことなんだ。

そのことに気づくのに、俺たちはずいぶんと廻り道をしたような気がする。

「ううん・・・2時の飛行機だから大丈夫・・・今何時?僕ずいぶん寝ちゃってた?」

「今か?えっと・・・3時半かな。2時間くらいしかねてなから寝ないと辛いぞ」

ベッドの横に置いてある目覚まし時計を元の位置に戻して、その手で、ぽんぽんと、上掛けの上から、俯いたままの鈴の背中を叩いてやった。

「研くんは、ずっと、起きてたの?」

「ああ・・・鈴の寝顔見てた。かわいいなって」

「もぅ・・・研くんのばかぁ・・・」

暗闇にも、パフッと枕の中に隠れた白い頬がサッと赤く染まるのがわかる。

何度肌を重ねても、そんなちょっとした可愛さに、俺は馬鹿みたいにクラッと来て、胸の奥が昔と同じようにキュンと音を立てる。

まったく・・・・何度惚れ直させれば済む気だよ・・・

苦笑混じりに、伏せた鈴の髪を撫でていると、鈴が小さな声で呟いた。

「・・・・」

「え、なんだって?」

囁くような声が枕に吸い取られて、聞き取れなくて、耳を寄せた。

「・・・もいっかい・・・しよ・・」

恥ずかしそうな声が枕の中にくぐもって聞こえた。

「おいおい、無茶言うなよ・・さっきだってあんなだったのに」

半分気を失っている鈴の身体を俺がバスルームまで運んで身体を洗ってやったのに、鈴は、その間も、なんだかぼんやりと微笑んでいて、ベッドに入れてやるとすぐに眠ってしまったんだ。

「いい・・・飛行機の中で眠るから」

「明日、辛いぞ?」

辛いのは、どうしても受け身になるお前の方なのに・・・・・第一俺は手加減して出来るほど器用じゃないし・・・・・・

鈴の身体はいい加減悲鳴を上げてるはずなんだ。

「もう寝よう、な?」

困ったように苦笑していると、鈴が、プッとむくれてそっぽ向いた。

「研くんは、いやなの?僕としたくないの?だったら、もういい!」

「ばかやろ・・・イヤなわけないだろ」

クスクスと笑いながら、僅かに抵抗してみせる鈴の身体を腕の中に引き寄せて、ほんの少し尖らせ気味に拗ねている桜唇に俺はゆっくりと唇を寄せた。

時は200×年。

俺が鈴に恋をしてから20年目の夏が過ぎようとしていた。

※END※

ふふ。皆さんやきもきの「研&鈴」の未来を少しだけかいま見ていただきました。

これで少し安心して読んでいただけるでしょうか〈笑〉

あ、でも未来は些細なことで変わるんでしたよね?>鬼畜〈笑〉

今後とも我がサイトを宜しくお願いいたします。

尚、このSSは「純白の花衣」終了後、サイトに転載いたしますvv

※と、暑中見舞いには書いたんですが、少し早めのupになりました※

氷川雪乃