Crystals of snow story

純白の花衣

〜*〜 プロローグ 〜*〜

掲示板1000キリ番記念ショート

腕のあたりでサラサラ揺れる金の髪。

まだ、幼さの残る高めのボーイソプラノ。

身体を包みこんで、まだあまりある、真新しい制服は、昔ながらの真っ黒な詰め襟で胸には髪と同じ色の金ボタン。

初々しい中学校の制服を着た少年は春爛漫の陽気に負けないほどの華やかな笑顔を肩を並べて歩いている青年に向けた。

少年の笑顔に引き寄せられるように笑みを返した青年の足が、少年の頭上からそれた瞬間、不意に止まった。

スローモーションのごとく、少年の彼方に視線は流れ、整った、甘いマスクに困惑の表情が浮かび、笑みを浮かべていた口元が、ゆっくりと弛緩する。

「眞一さん・・・・?」

青年の視線を追って見ると、その先には、目の前のビルから、つり下げられた巨大な広告。

ふわふわのオーガンジーの花がふんだんに咲き誇る、純白のウェディングドレスを着た清楚な少女の前に、膝をつきイギリス風の求婚のポーズで深紅の薔薇を青年が捧げている、華やかな広告だ。

薔薇を献上して微笑んでいる青年はどこか眞一と呼ばれた青年に似ている。

『世界中の誰よりも美しいあなたに・・・・・・・・』

どこかで聴いたようなキャッチコピーの横にはウェディング・ドレスで有名なブランド『花衣』のロゴが浮き上がって見えるような印刷方法で記されていた。

美しさには様々な形があるが、ポスターの少女は汚れなく無垢なウェディングドレスの広告にはピッタリの美貌の持ち主だった。

はにかんでいるような微笑みは見る者の視線を男女問わず釘付けにする。

そこここに歩いている人々の何割かは惚けたように上を見上げて、そぞろ歩いていた。

目の前で、文字通りあんぐりと微かに口元を開けている青年は、その誰よりもその広告に魅入られて、無言のまま立ちつくしていた。

幼い、連れがいることも忘れてしまったかのように。

「そうですか・・・・・・・ああいう人が趣味だとは知りませんでした」

黄金の髪をした少年は、外見にはそぐわない流ちょうな日本語で、これまた、宗教画から抜け出した天使のような幼い外見からは信じられないほど大人びた辛辣な口調で言った。

「なんだって・・・セル?」

瞬時には少年に言われた言葉の意味が飲み込めなかったとでも言うように、眞一は数回瞬きをしたあとに、少年に向き直った。

「趣味って、何のことだよ」

「いつもは、もっと派手な美人が相手ですよね?結婚と恋愛は別って言う類の人だったんですか?」

眞一さんの結婚も恋愛も僕にはどうせ関係ありませんよと、つまらなそうにセルはツンと横を向いた。

「おいおい、ちょっと待ってくれよ。何をむくれてるんだ?」

プッと、吹き出した眞一は金色の絹に指を絡めて、30cm近く下にある小さな頭を自分の方に向けさせた。

「むくれてなんかいません・・・・」

「結婚相手にするなら、あんな子がいいなぁって、俺が見とれてたと思ったのかな?」

ふふっと、楽しそうに眞一は目元を和ませた。
長い指はサラサラの輝く髪を優しい仕草で何度も梳いている。

「そんなこと・・・・知りません!」

「そうだな、そろそろ結婚するのもいいかもね。あの子みたいに純情そうで、大人しそうで、綺麗な子とならね」

眞一の言葉に、セルの顔から血の気がサッと引く。

そのタイミングを計ったかのように、眞一は頭に置いていた手に力を込めて、ぐいっと胸の中に小さな金の冠を抱き込んでささやいた。

「冗談だよ、セル・・・・・」

甘く、柔らかな声に、たっぷりとした制服に包まれているセルの肩が小刻みに震える。

「いじわる・・・・・・・です。あなたは・・・」

「ああ、そうかもしれないね。セルを見ると苛めたくなるんだよ」

出会って、二年・・・・・子供の身体に大人の心をもつ、この不思議な少年に、惹かれてやまない自分がいる。

意地悪い言葉でしか、気持ちを確かめる術がない。
いくらセルが大人びた心と人並みはすれた高いIQを持っているとはいえ「愛している」とささやくにはまだ、早すぎるのだから。

今までとは勝手が違いすぎた。
口づけひとつで、伝えられる思いすら、簡単には伝えることが出来ないのだから・・・・・・・



「ええ??まさか!!!!」

レストランのテーブルで、驚いたセルがカチャンとフォークを取り落とした。

「間違いないよ、ありゃぁ、どーみても鈴矢くんだ」

「確か、僕も一度お会いした、あの綺麗な人ですね?弟さんの・・・」

恋人と言う言葉を飲み込んで、セルはサッと頬に紅を掃いた。
白人特有の乳白色の肌は赤く染まると美しいピンク色になる。

出会った頃に柔らかな頬に散らばっていた愛嬌のあるそばかすも今はもうすべらかな大人の肌になりかけていて、影も形もなくなっていた。

「あいつ、知ってるのかな・・・・知ってたら、研二のことだから止めてるだろうけどね」

「女装がダメと言うことですか?とても綺麗だと思いますけど・・・」

「あいつは了見が狭いからね。あんな綺麗な鈴ちゃんを人目にさらすなんて、許せないよ、きっと。
それに自分以外の男の横で、鈴矢くんがウェディング姿で立つなんて認めるはずがない」

幼稚園のころ、鈴があの純白のドレスを着れないと知って、大泣きした研二を思い出して、眞一はクスクスと笑った。

「なんだか、羨ましい・・・・・」

「ああ、研二はバカだけど、羨ましいね」

別々の思いを胸に抱いたまま、二人はゆっくりと視線を絡めた。




そのころ、純白の花衣に身を包んだポスターの鈴は、夜の街に美しくライトアップされて幸せそうに微笑んでいた。

END

ふふ、結局は二部と、眞一さんの話、両方へのプロローグになってるんですねぇ〜眞一さんのお相手は意外な人物だったのではないでしょうか?

氷川の所では初めての本格的ショタなのです。あ、あくまで精神的にですけど〈爆〉

でもまぁ、これはあくまでも「研&鈴」のプローローグですから本編は、彼らが高2、鈴のポスターの花嫁衣装が本筋ですv

眞一さんの方も早く始めたいんですけどね〜