Crystals of snow story
夢のまえ、夢のあと・・・
研&鈴 番外
☆
指の間から、さらさらとこぼれ落ちる、漆黒の絹糸。
薄闇の中、俺の胸に寄り添って眠る鈴の髪を何度も何度も掬っては、柔らかでしなやかな感触を愛でる。
深い眠りにゆったりと沈み込んでいる鈴は、幸せそうで、やわらかな笑みを白磁の頬に浮かべながら眠っている。
つい、数時間前。
鈴は俺のために、真っ白なドレスを着てくれた。
『今日だけだからね?直に僕はこんなの似合わなくなっちゃうんだよ、わかってるよね?
僕は、女の子の代わりになりたいなんておもってないから、僕は僕として研くんにちゃんと、愛してもらいたいから・・・・』何度も何度も俺の気持ちを確かめるように繰り返された、鈴の言葉。
優しげで、儚げで、たおやかな美しさを持ち合わせてる鈴が、実は誰よりも激しい気性と、プライドを根底に持っていることを俺は知っていたはずなのに、鈴をここまで不安にさせてしまったのは、誰でもない俺の愚かしさのせいだ。
鈴だから愛しい。
鈴だから恋しい。
鈴だから・・・・・・・
ほかの誰でもない・・・・・
俺の、俺だけの鈴だから・・・・・・・
そのことをどうして、俺はちゃんと言葉にできなかったんだろう。
どうして、鈴を不安になんかさせちまったんだろう。
こんなにも、愛しいのに。
お前以外誰もほしくなんて、ないのに・・・・・
小さく吐息を漏らして、俺の胸の中で丸まっている身体を鈴が身じろぐと、それだけで俺の胸はきゅんっと音をたてて、高鳴る。
愛しくて・・・愛しくて・・・・・
さっき、すべてを俺のものにしたはずなのに、悲しいかな、途中から頭が真っ白になって、鮮明に覚えていない。
ああ、俺ってなんて、馬鹿な奴・・・・・
ただ、ただ、幸福感に満ちあふれていた。
一生分の夢を見たみたいに。
目尻からポロポロとこぼれる鈴の涙。
しがみつく華奢な手足。
俺を包み込む暖かさ。
すべてが、夢の中の出来事みたいに幸福感に包まれてた・・・・・・・・・
そっと、白磁の頬にくちづける。
起こさないようにそっと・・・・・・・
規則正しい鈴の吐息が俺をも夢の中へと誘う。
夢なら目覚めたくない・・・・
夢なら、醒めないで・・・・・・・
このままずっと・・・・・・・
☆
差し込む朝の光が研くんの寝顔に陰影をおとす。
ここ1.2年で大人びた彫りの深い顔立ちだけど、微かに口元をゆるめて眠る姿は、幸せそうで、とてもかわいい・・・・・
夕べ何度も、僕に向かって囁いてくれた「かわいい」の言葉を、僕が言ったらきっと怒るんだろうね。
クスクスと漏れる笑いを押し殺して、僕はそっと広い肩にすり寄った。
隔てるものがなくふれあう肌はなんて、暖かくてやさしいんだろう。
研くんの胸から僕の胸に、鼓動が流れ込んでくる。
トクトクトク・・・・・っと、命のリズムを刻む鼓動。
どれくらいそうやって、研くんの寝顔を眺めていただろう。
研くんが目覚めなければ、一日中だってきっと、見ていたかも。
まるで、夢を見続けているような幸福感に満ち足りたまま・・・・・・・
ふいに、身じろいだ研くんが2.3度瞬きをした。
最初に目を開けて僕をみると、ふんわりと幸せそうに微笑む。
寝ぼけ眼な、研くんがとても、かわいい。
二度目に目を開けたときは少し驚いたように目を見開いて、確かめるように僕を抱き寄せ、ホッと、小さなため息をついた。
「夢じゃ・・・ないよな?」
ほんの少し不安をにじませた口調が、これまた、かわいい。
今にも口にしてしまいそうな台詞を飲み込んで、
「夢じゃないとおもうけど・・・・・キスして、研くん。夢じゃないって、わかるようなキス・・・・ね?」
首に腕を回して、微笑むと、サッと赤くなる研くんの頬。
かわいい・・・・・・・
落ちてきた口づけは紛れもない本物で・・・・・
夢のあとの現実を僕たちは確かめ合った。
夢なら醒めないで・・・・・
何度も何度も夢から覚めて、涙を零したけど、夢じゃないから・・・・・・・・
もう、夢じゃないから・・・・・・・・・
愛してる。
誰よりも・・・・・・・
僕がつぶやいたのか、研くんがつぶやいたのか・・・・・
醒めた後も、夢はつづくんだね。
きっと・・・・・・・
ずっと・・・・・・・
*END*
長い間二人を応援してくださってありがとうございましたm(__)m
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