Crystals of snow story

夢のまえ、夢のあと・・・

研&鈴 番外

指の間から、さらさらとこぼれ落ちる、漆黒の絹糸。

薄闇の中、俺の胸に寄り添って眠る鈴の髪を何度も何度も掬っては、柔らかでしなやかな感触を愛でる。

深い眠りにゆったりと沈み込んでいる鈴は、幸せそうで、やわらかな笑みを白磁の頬に浮かべながら眠っている。

つい、数時間前。

鈴は俺のために、真っ白なドレスを着てくれた。

『今日だけだからね?直に僕はこんなの似合わなくなっちゃうんだよ、わかってるよね?
僕は、女の子の代わりになりたいなんておもってないから、僕は僕として研くんにちゃんと、愛してもらいたいから・・・・』

何度も何度も俺の気持ちを確かめるように繰り返された、鈴の言葉。

優しげで、儚げで、たおやかな美しさを持ち合わせてる鈴が、実は誰よりも激しい気性と、プライドを根底に持っていることを俺は知っていたはずなのに、鈴をここまで不安にさせてしまったのは、誰でもない俺の愚かしさのせいだ。

鈴だから愛しい。

鈴だから恋しい。

鈴だから・・・・・・・

ほかの誰でもない・・・・・

俺の、俺だけの鈴だから・・・・・・・

そのことをどうして、俺はちゃんと言葉にできなかったんだろう。

どうして、鈴を不安になんかさせちまったんだろう。

こんなにも、愛しいのに。

お前以外誰もほしくなんて、ないのに・・・・・

小さく吐息を漏らして、俺の胸の中で丸まっている身体を鈴が身じろぐと、それだけで俺の胸はきゅんっと音をたてて、高鳴る。

愛しくて・・・愛しくて・・・・・

さっき、すべてを俺のものにしたはずなのに、悲しいかな、途中から頭が真っ白になって、鮮明に覚えていない。

ああ、俺ってなんて、馬鹿な奴・・・・・

ただ、ただ、幸福感に満ちあふれていた。

一生分の夢を見たみたいに。

目尻からポロポロとこぼれる鈴の涙。

しがみつく華奢な手足。

俺を包み込む暖かさ。

すべてが、夢の中の出来事みたいに幸福感に包まれてた・・・・・・・・・

そっと、白磁の頬にくちづける。

起こさないようにそっと・・・・・・・

規則正しい鈴の吐息が俺をも夢の中へと誘う。

夢なら目覚めたくない・・・・

夢なら、醒めないで・・・・・・・

このままずっと・・・・・・・

差し込む朝の光が研くんの寝顔に陰影をおとす。

ここ1.2年で大人びた彫りの深い顔立ちだけど、微かに口元をゆるめて眠る姿は、幸せそうで、とてもかわいい・・・・・

夕べ何度も、僕に向かって囁いてくれた「かわいい」の言葉を、僕が言ったらきっと怒るんだろうね。

クスクスと漏れる笑いを押し殺して、僕はそっと広い肩にすり寄った。

隔てるものがなくふれあう肌はなんて、暖かくてやさしいんだろう。

研くんの胸から僕の胸に、鼓動が流れ込んでくる。

トクトクトク・・・・・っと、命のリズムを刻む鼓動。

どれくらいそうやって、研くんの寝顔を眺めていただろう。

研くんが目覚めなければ、一日中だってきっと、見ていたかも。

まるで、夢を見続けているような幸福感に満ち足りたまま・・・・・・・

ふいに、身じろいだ研くんが2.3度瞬きをした。

最初に目を開けて僕をみると、ふんわりと幸せそうに微笑む。

寝ぼけ眼な、研くんがとても、かわいい。

二度目に目を開けたときは少し驚いたように目を見開いて、確かめるように僕を抱き寄せ、ホッと、小さなため息をついた。

「夢じゃ・・・ないよな?」

ほんの少し不安をにじませた口調が、これまた、かわいい。

今にも口にしてしまいそうな台詞を飲み込んで、

「夢じゃないとおもうけど・・・・・キスして、研くん。夢じゃないって、わかるようなキス・・・・ね?」

首に腕を回して、微笑むと、サッと赤くなる研くんの頬。

かわいい・・・・・・・

落ちてきた口づけは紛れもない本物で・・・・・

夢のあとの現実を僕たちは確かめ合った。

夢なら醒めないで・・・・・

何度も何度も夢から覚めて、涙を零したけど、夢じゃないから・・・・・・・・

もう、夢じゃないから・・・・・・・・・

愛してる。

誰よりも・・・・・・・

僕がつぶやいたのか、研くんがつぶやいたのか・・・・・

醒めた後も、夢はつづくんだね。

きっと・・・・・・・

ずっと・・・・・・・

*END*

長い間二人を応援してくださってありがとうございましたm(__)m

感想等メルやフォームでお聞かせくださるととってもうれしいです。