Crystals of snow story
L o v e r s
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「暖かいと思っていたけど、結構冷えるね」 こんな格好で来るんじゃなかったな・・・・って思うほど、高級そうなレストランで食事を済ませ、恭しくボーイの開けてくれたドアをくぐるなり光一朗が俺の後ろで言った。 「うん。寒いな・・・・・・」 ダッフルコートのしたに首まで包むセーターを着ていても、店内がやけにあったっかかったせいか、思いの外外気は冷たい。 「じゃぁ、早くタクシーを拾わないと。でも、空車通らないね、店で呼んでもらうかな」 「え・・・・もうかえるの?」 踵を返しかけた光一朗に、ぽろりと俺の口から本音が零れ出る。 驚いたような顔で振り返った表情にしまったと臍をかんだけど、光一朗は悔しいほど優しげに微笑んでうつむき掛けた俺の顔を覗き込んだ。 「まだ、一緒にいてくれるのかな?」 微妙な言葉のニュアンスに、ドキリと鼓動が跳ねる。 イヴの待ち合わせがいつもと違い夕方だったことで最初からドキドキしてるのは俺の方。 「ちょ、ちょっと訊いただけだろ。タクシー呼べよ」 「帰したくない・・・・・正臣」 あの日からずっと待ち望んでいた言葉を、耳元で低く囁かれて、俺の心臓はバクバクと沸き立ってしまった。 「よっぱらってんだろ・・・さっきのシャンペンで」 「どう答えればいい?酔ってると言えば一緒にいてくれるかい? 大きな手が、俺の頬を包む。 くそぉ・・・・・分かってるくせに・・・ 腹立つなぁ、もう・・・・・・・・・ 「俺、高級ホテルのスイートルームじゃなきゃ泊まんねぇ!」 クリスマスイヴの当日にホテルのスイートなんか取れっこないのを承知でプンとそっぽを向いてやった。 ほら見ろ、光一朗の奴ぽかんと口まで開けて驚いてやがる。 「ほら、タクシー呼びなよ、こんなとこ突っ立てたら寒いじゃんか」 「いいの?ほんとに?」 え・・・・なんだよ、そのリアクションは・・・・・・・ 「ああ、ちょうど空車だ。行くよ、正臣」 おい、やけに声が嬉しそうなのは・・・・俺の気のせい??? 「お客さんどちらまで?」 「Rホテルまでお願いします」 「Rホテルですね。 「今夜はクリスマスですからね。 押し込まれるように乗り込んだタクシーの運転手と光一朗の会話に思わず俺は絶句した。 Rホテルって・・・・・・う・・・・嘘だろ?? シックな証明に照らされ、淡いブルーで統一されたリビングのふかふかしたソファーの上で、俺は縮こまるように膝を抱きしめていた。 窓の外は電飾がキラキラと飾られてるし、テーブルの上にはクリスマスのお客様へと書かれたシャンパンと真っ赤なイチゴが綺麗に盛られていてクリスマスムードは満点だ。 みまいとしても、奥にあるベッドルームがちらちらと視界に入ってくるし・・・・ 「バス、使えるよ。バブルも入れておいたから」 上着を脱ぎ、ワイシャツの袖をめくった光一朗は、まるで自分の部屋にでもいるようにくつろいだ風体でバスルームからこっちにやってきた。 「いいよ・・・俺・・・・あとで」 「いいお湯だよ。広いから一緒に入れるし」 「だから俺はあとでいい・・・・いっしょ??う・・わぁ〜!今なんて言ったんだよ!!!!」 「一緒に入れば良いだろっていったんだよ」 「ば、バカ言うなぁ!!!!一緒になんか入るわけねぇだろう」 「そりゃ、残念だなぁ・・・・・・・バスルームでシャンペンとイチゴを食べさせて上げようと思ったのに」 ワインクラーの氷をカシャリと鳴らしながら光一朗はシャンペンの瓶を持ち上げて見せた。 「ほら、よく冷えてる」 「そんなもん、わざわざ風呂で飲まなくてもいいだろう! 光一朗からキーンと冷えたボトルをもぎ取って、勢い良く栓をポンと抜くと、クリスタルカットの薄紫をしたグラスに自分の分だけ注ぎ一気に煽った。 外国映画の俳優みたいにヒョイッと首を竦めて見せた光一朗は、まだ残念だなと呟きながら風呂場に消えていった。 けど、なんで風呂場で苺が食いたいんだか・・・・・変な奴。 一人っきりになるとそれまで張りつめていた緊張の糸がぷっつり切れて、食事のときに飲んだシャンペンと今の酔いが急激に回ってきた。 ほんのちょっとだけ、手足を伸ばそう。 柔らかくて暖かい感触が、頬や額に触れる。 しばらく唇のあたりをさまよっていたと思ったら、それは深く潜行して俺の口腔に潜り込み、眠り込んでいた、意識を呼び覚ました。 「ここで、襲われたいの?」 瞼を開けると、至近距離で微笑む光一朗の貌。 しばらく状況が掴めずに、瞼を瞬いていると再び唇が塞がれた。 暖かさを通り越して熱い口づけ。 ギシっと、革張りのソファを揺らして、俺の舌を絡め取るように蹂躙し、吸い上げる。 「は・・っ、ん・・・」 甘い息が自分の鼻腔から漏れて、やっと、今いるのはRホテルのスイートルームだと言うことに気がついた。 「お・・・俺、ん・・・ぁ・・・風呂・・・・・・」 入んなきゃ・・・・・・・ 「しっ・・・・・黙ってて・・・」 口づけの合間に何とか言葉にしても、光一朗は放してくれない。 だんだん、なんだかやばい方向に愛撫が降りてくし・・・・・ 「ん、や・・」 「ま・・・んぁ・・・・・・・」 お、おい、まってって言ってるのに! バンッ!!!! 「俺!風呂入るっていってんだろ!!!」 力一杯腕を突っぱねて叫んだら、呆れたような顔で見下ろされた。 ・・・・・お・・・・・・怒ってる・・・・・・・・・ 「・・・悪かった・・・・・入っておいで」 ローブの襟元を整えて、長い息をはくとくるりと向きを変えてベットルームのに向かって歩いていく。 ・・・・・・・・ガキ臭いって・・・思われたかな。。思われたよな? 「こ、光一朗・・・・・・・・」 おずおずと声を掛けてみる。 そりゃ、ここまで来て、あそこまでさせて、ストップ掛けたのは俺が悪いんだけど今までだって、ずっと、俺が・・・・・ 「なに?」 背中を向けたまま冷たい声が返ってきた。 「あ・・・あの、嫌だって訳じゃ・・・・ 「それで?」 吐息と一緒に振った栗色の髪がぱさりと揺れる。 「だから・・・・お、俺・・・・」 言葉に詰まった。 「早く入ってくればいい。お湯、ぬるくなるよ」 たしなめるような口調に仕方なく頷いた。
薄暗いベッドルームに入っていくと、光一朗はすでに広いベッドの端で横を向いて眠っている。 零れそうになる涙をぐいっと二の腕で拭いながら上掛けをめくり、そっと滑り込んだ。 「光一朗・・・・・・・ごめん」 そっと、小さく呟くと、離れている光一朗の肩が震えだした。 「ご、ごめん!!!」 まさか泣いてるんじゃ? 上から覗き込んだら、がばっと抱き込まれて震えている身体の下に押さえ込まれた。 「びっくりした?」 俺の上にのしかかりながら光一朗は・・・・・・・・・笑っていた・・・・・・・・、さも可笑しそうに肩をふるわせながら。 「な、なん!!!」 抗議の言葉はもちろん口づけで封印されて・・・・・・ 「怒ってるとおもっただろう? 甘く囁かれたあとは完璧に光一朗のペースで・・・・・・・・ 渇ききった喉にジューシーな苺の果汁が染み渡る。 「でもなんで光一朗、ホテルの予約なんか取ってたのさ?」 「昨日会社でちょっとした忘年会兼クリスマスパーティがあってね。 「へぇ?ここって高いんだろ??」 密着している素肌が心地よくて、気づかれないように、そっと身体を寄せた。 「一泊25万って訊いてるけど、クリスマスはもっとするかもね」 「25万??? 驚いて聞き返すと、にっこりと最上の笑みで、 「まさか。無駄になんてするわけないだろ」 って、それって、俺が来なくても、予備がいっぱいいるって言うことかよ・・・・・・ むくれた俺の口に光一朗は指でつまんだ苺をもう一つくわえさせると、 「今夜は帰したくないって、ちゃんと言うつもりだったから」 ふふっと微笑んだ。 バカヤロ・・・・真顔で言うな、そんなこと・・・・・・・・・・ 今世紀最後のクリスマス、口の中の甘酸っぱい苺は俺の想いにも似て、やがて来る新しい春を彷彿とさせた。 ★END★ ゲロ甘・・・・・・・・・・あはは、続き書いてしまいました。元話読まなくても一様分かるはずっていうか、コレと言った話じゃないんで〈笑〉 光ちゃん「プリティウーマン」したかったようですね。お子さまの正臣は分かんなかったけど〈笑〉 |