Crystals of snow story

恋人シリーズ SS

****初春の恋人****

 

立派な門松を飾ったおしゃれな作りの和風家屋。

正月早々、光一朗に連れられて行った先が、そこだった。

俺んちなんかと比べると、馬鹿でかいし、あんまりおしゃれな作りだったから、グルメ雑誌なんかに載ってる、郊外の住宅街にある一軒家のレストランかな?とか思いながら、車を停めてくるから、先に降りててくれないかと、光一朗に促されるまま助手席から降りた。

俺達のデートの出資担当は交代制で、俺の時はチープなハンバーガーや吉○の牛丼なんかなんだけど、光一朗の時は、ともかく色んなおしゃれなお店に連れて行ってくれるからだ。

俺が連れて行くようなとこに行くと、それこそ掃きだめに鶴っていうか、普段でも目立つ光一朗は周りから浮きまくるから、ほんとは、全部光一朗に任せた方がいいのかもしんねぇけど・・・・・・

エンジン音で気が付いたのか、俺がドアを閉めて降り立った途端、門の向こうからパタパタと足早に足音が聞こえた。

「まぁ、まぁ・・・・ようこそ」

門が内側に開かれ、歓迎ムードたっぷりの笑顔で微笑みかけられた。

「え・・・・はぃいい?」

開かれた門に顔を向けると、横手には、立派な石に彫られた『真壁』の文字。

俺は不覚にも、和服を着た上品な女の人が出てくるまで、『真壁』と記された表札に気が付かなかったんだ。

見覚えのある面差しと、門の右横にはめ込まれている表札に俺の視線は行ったり来たり。

きっと、馬鹿みたいに惚けた顔だったに違いない。

「あら、光一朗ったら、嶋村さんには、家にお連れするって言ってなかったのね?
ほんとに・・・相変わらず言葉が足りないわねぇ。
ごめんなさいね、驚いたでしょ?」

俺の惚け顔に事情を察したらしい女の人は、ガレージの方向を呆れ顔で見やった後、俺に小さく頭を下げた。

俺を降ろした後、家の横手にあるガレージに光一朗は車を入れに行っていて、やっと、こっちに向かって歩いて来てるところだった。

俺の動揺なんか気にも留めてないのか、飄々と歩いてくる光一朗は新春のすがすがしい空気の中、柔らかな笑みを浮かべてる。

暢気なもんだよ・・・ったく・・・・

「さあさ、あの子はほっといて、中へ入りましょ」

追い立てられるように、俺は門の中、そしてそのまま家の中へと招き入れられた。

「この辺は山風が降りてくるから寒いでしょ?」

優しい声もどこか似てる、年齢は40すぎぐらいに見えるけど、光一朗によく似た面差しからして、きっとお母さんなんだろう。

ってことは・・・・・50代???みえねぇ・・・

 

「正臣くんだね?いやぁ、初めて会った気がしないねぇ・・・・・さぁさ、立ってないで座りなさい」

お節料理の並べられた和室に通されると、どっしりとした貫禄のある男性がゆったりと微笑みかけながらそう言った。

俺の事を実家に何て言ってるのかさっぱりわかんねーけど、ともかく、歓迎ムード満載で食事が始まった。

毎年年末年始は実家で過ごしてるのは知ってたけど、なんで今年に限って俺を連れてくるんだろう?

強張った、愛想笑いを浮かべた俺は、色々と話しかけてくるご両親への返事をしながら、俺はチラチラと光一朗の様子を伺っていた。

 

「この子、優しそうに見えて、頑固でしょ?」

お母さんが、食後のお茶を俺に出しながら聞いてきた。

「え?そうかな・・・・」

たしかに、そうなんだけど、何でも聞いてくれるわりには、思いこみ激しいっていうか・・・・・頑固だよな。

「でね・・・」

言いかけた言葉を一瞬そこで切って、お母さんはお父さんの方をちらっと見やってから、俺に真剣な眼差しを向けた。

「光一朗は、もう決めてるからって言うんだけれど、あなたはまだ若いわ。ほんとうにいいのかしら?」

「お母さん。良いも悪いもないでしょう」

俺が質問の意味を解読する間もなく、光一朗が先に答えた。

俺が若いって・・・・・なにかあるのかな?

なにが、良くて、何が悪いんだ?いったい?

「あなたの思いこみかもしれないでしょ?昔からそういうところがあるから、心配なのよ」

お母さんが、今度は俺じゃなく、光一朗に真剣な目を向けた。

「正臣がどうであれ、僕の気持ちは変わりませんから。
それは何度もお話したはずですよ?」

「こういうことは、お互いの気持ちがあってこそだろう?」

お父さんまでが、難しい顔で参戦する。

「お母さんたちに分かって貰いたいのは、僕の気持ちです。だから、言われたとおり、正臣を連れてきたんじゃないですか」

「正臣くんにも了承を得なければ意味がないでしょう?
それを、あなたは、家に連れてくることも話さないで・・・・・・」

なんだか、物言いは静かだけど、親子喧嘩してるのか?この人たちは・・・・

どうしていいか分からなくなって、俺は目の前にあった、お茶を取りあえず手に持った。

「ともかく、僕は正臣以外と一緒になる気はありません。正臣の返事がどうあれです」

「っ・・・・・あ、あっっちぃーーーーーー」

光一朗の唐突な宣言にびびりまくった俺は、ジーンズの上に、手に持ってた湯飲みを盛大にひっくり返した。

「だいじょうぶか?!正臣」

「あらあら、たいへん!」

大丈夫じゃないし、そりゃ大変だっての・・・・

なんだぁ俺たちって、ここに・・・・

結婚か婚約の承諾でも受けにきてんのかよ?

太股は熱いし、頭はパニクってるし、涙目で光一朗を睨み上げた。

 

 

実家の光一朗の部屋で、俺は冷たいタオルで腿を冷やさせてもらった。

昔のままなんだろう、窓際に置いてある学習机には辞書まで並んでる。

「少し赤くなってるけど、よかった・・・・やけどにはなってないね」

「ああ、だいじょぶ。ヒリヒリするほどじゃないから、もう冷やさなくてもいいよ。それよりなんか履くもの貸して」

パニックが収まってくると、トランクスだけの姿が急に恥ずかしくて、トレーナーの裾を引っ張った。

「もう少し、冷やしておかないとだめだよ」

にっこりと微笑みかけてくるけど、なんで冷やしてないほうの腿にも、光一朗の手があるんだよ?

「すまなかったね。両親がどうしても一度正臣を連れてこいって言うものだから」

「あのなぁ・・・・連れて行く前に、話せよな?びっくりすんだろ!」

「先に話したら、こないだろ?」

「う・・・・・」

返事に詰まった俺に、ほらねと光一朗が苦笑する。

確かに、聞かされてたら、来てなかったと思う。

「連れてきたからって、正臣にどうして欲しいってわけじゃないんだ」

ベッドに腰掛けてる俺の前に跪いている光一朗の琥珀色の瞳が長いまつげに臥せられた。

「光一朗?」

「ただ、両親にも正臣にも分かって欲しかった。僕の気持ちは揺るがないってことを」

ばか・・・・・そんなこと言われたら、めっちゃくちゃ、嬉しいだろうが・・・・

ぎゅっと目の前の首に俺は抱きついた。

「正臣?」

光一朗が尻上がりに俺の名を呼んでも、もう悲しくなんかない。

「後で、俺も言うよ。お母さん達に」

「そうか・・・・・ありがとう」

背中に回された光一朗の腕も俺をきつく、きつく抱きしめた。

 

帰るときにちゃんと言おう。

光一朗の思いこみなんかじゃありませんって・・・・・・

俺の気持ちも同じですって・・・・・

 

口づけに思考ごと熔けて沈み込んだ柔らかなベッドは、やっぱり光一朗の香りがした。

 

END

 

昨年のお正月にフォームを頂いた方だけにお送りしたSSです♪

シリーズとしては私の中での原点のふたりなので愛着があるんですねぇ。

ではでは、今年も宜しくお願い申し上げます。

氷川雪乃