Crystals of snow story

白い恋人

恋人シリーズ番外編

ルルがお利口さんに一人で留守番をしていると、
来客を告げるチャイムがなったので、日の当たる窓際で毛繕いしてた手を止めて、玄関の方に行ってみたの。

そしたら、見知らぬ女の人が立っていて、

「ルルちゃん、あなたの願いをひとつだけ叶えて上げましょう」

なんて言ったのよ。
だから、ルル、人間の女の子になってみたいって答えたの。

大好きな大好きなご主人様とちゃんとお話がしてみたいって・・・・
いつもいつも思っていたから。

淡い空色のドレスを着た女の人が、お星様がてっぺんについたスティックをルルの上でくるっと一回転させると、ルルの回りがキラキラキラって輝いて、なんだか、今までと世界がちがう。

「さぁ、鏡をごらんなさい」

女の人にそう言われて、ルルが鏡を覗き込むと、そこには真っ白でふわふわの衣装を着た、とっても可愛い女の子がいたの。

「わぁ、ルル、人間の女の子になっちゃった♪」

嬉しくてぴょんぴょん飛び跳ねると、いつもなら一緒に踊ってくれる、しっぽがなくて、バランスを崩しちゃう。

もう一度玄関に戻ってみたら、もう、女の人はどこにもいなくて、ルル、ドキドキしながらご主人さまが帰ってくるのをじっとソファに座りながら待つことにしたの。

ご主人様、ルルだって、分かってくれるかな?

かわいいよって言ってくれるかな?

もしかしたら、あの男の子のことを見るような、熱い瞳でルルのことも見つめてくれるかも。

きゃあ♪ルル、ドキドキしちゃう。

ご主人様、早く帰ってこないかなぁ〜

シーンとした部屋の中、チクタク・チクタクと規則正しく聞こえてくる、時を刻む音。

ふわぁあああ・・・・・・

ルル、なんだか、眠くなって来ちゃった・・・・・

そう言えば、いつものお昼寝の時間。

ご主人様が帰ってくるまで、眠ってようかな。。。

目が覚めたら、お帰りなさいって、言うの。

いつもみたいに、喉をごろごろ言わせるんじゃなくって、ちゃんと人間の言葉にして。

「光一朗さん、お帰りなさい」って・・・・・・・

ご主人様、きっとびっくりするだろうなぁ・・・・・

「ルル、お前の好きなヨーグルト買ってきてやったぞ〜。あれ、光一朗、ルル熟睡中みたい」

ソファの上で丸くなって眠っているルルをのぞき込んで、俺が小さな声でそういうと、脱いだコートをハンガーに掛けながら、光一朗も不思議そうに、小さく笑った。

「ほんとだ・・・・珍しいな、ルル。僕が帰ってきたらいつもは起きるのにね」

「でもさ、なんかすっげぇ、幸せそうな顔して寝てねぇ?」

起こさないように、そっと立ち上がった俺は、ルルとソファの間に薄い一冊の本があることに気がついた。

「なぁ、光一朗、ルルなんかの本の上でねてるけど、かまわねぇの?」

「ああ、いいんだよ、それはルルのだから」

「ルル・・・・の本?」

「そう、ルルのなんだ。ほら、ピノキオって童話があるだろ?あれだよ」

「ピノキオ?なんで、ルルにピノキオなんだよ?」

驚いてもう一度覗いてみると、確かにそれは幼児向けの絵本のようだった。

俺も子供の頃に持っていたような、よくあるディズニーの古びた絵本だ。
ルルの身体が隠していない場所に、星の女神だかなんだかの水色のドレスが見える。

「さぁてね・・・・なぜかは分からないんだけどね。
年末からお正月にかけて、ルルをつれて実家に帰っただろう?その時に母が物置を整理していたのだけど、この本もそのうちの一冊なんだ。
どういうわけだか、ルルがやけに気に入ってしまってね。しょっちゅうその本の上で眠るものだから、持って帰ってきたんだ」

「ふううん・・・・・変な奴。ピノキオの夢でもみてんのかな・・・」

起こさないように、そっと背中の白い毛を撫でつけてやると、幸せそうな寝顔のままゴロゴロと、ルルは喉を鳴らした。

なんだか、とても幸せそうに、誰かに何かを言ってるみたいに。

良い夢みれると良いな、ルル。

* END *

 

たしか、キリ番の御礼企画をしていた際に、キリ番を取られたお客様にお送りした作品だったと思います。

ルルは皆様もよくご存じ(恋人シリーズのレギュラーですよね)光一朗の愛猫です。

「ねこ」って、よく眠るから「寝子」で「猫」なんだとか、聞きかじりですので定かではないですが(笑)