Crystals of snow story
L o v e r s
もう一組の恋人達
「慶・・・・・・・・・・どうして・・」 学校帰りに友達と寄った、ショッピングモール。 高級店も軒を連ねる、一角で、行き過ぎる人がハッと振り返るウインドウがあった。 ウインドウ越しにカップルが一組。 動くディスプレイのように美しいその二人は仲むつまじくネクタイを選んでいた。 「や−−−−絵になってるわね、あの二人」 一緒に買い物に来ていた、奈津実も彼らに気づいて、感嘆の声を上げた。 これでもかと言うくらい整った顔立ちの背の高い男は明るい髪の色によく似合う、渋いグレイのスーツ姿で、普通の女は彼の横に立ちたくはないであろう美形だ。 慶のうそつき・・・・・・・ただの同僚だって言ったくせに・・・・・・・ 慶は深紅の薔薇を連想させるワインレッドのスーツ姿だ。わたしが大好きなタイトなスーツを着て、あの男の前で美しく咲き誇っている。 決して、男の美しさに負けることなく、婉然と・・・・・・・・・ 似合い過ぎよ!何処がただの同僚なのよ!!! あれは去年のクリスマス。 数あるデートの申し込みの網をかいくぐり、やっとの思いで取り付けた約束のその場所に、慶は見知らぬ男の人と並んで立っていた。 数多くのカップルが待ち合わせている広場のモニュメントの横。 紫色のベルベットのコート着た美しい慶と、その慶に負けず劣らずの美しい〈男に美しいなんておかしいけど、そうとしか形容できないんだから仕方がない〉が並んで立つさまは、まるで一枚の絵画のように綺麗で廻りから際だって見えた。 分かっている、美人で才女で大人な慶には、ああいう人がお似合いなんだって事・・・・・・・・・・ わたしのようななんの取り柄もない高校生がいくらまとわりついても、慶には子猫がじゃれついているようにか思って貰えないって事くらい、分かってるのよ。 それでも募る思いは日に日にまして・・・・・ほかの誰にも渡したくはない。 わたしだけを見て欲しい、たとえそれが・・・・・・・・・・恋とはほどとおい形でであっても。 『ねぇ、慶。ほんとうに、さっきの人、ただの同僚なの?』 念を押したわたしに。 『もちろんよ』 とあの時確かに慶は答えたのに。 それともあれから数ヶ月の間に、ただ同僚から恋人に格上げしたとでも言うのだろうか。 慶に恋人らしい影を見たことは何度も有った。 慶の吸わないたばこの吸い殻。 慶の愛用のジパンシーとは違う甘い香りのトワレ。 気づかないふりをしていても、慶の部屋に入るたびに、わたしはいつも嫌になるほどアンテナを尖らしている。 わたしには決して踏みいることの出来ない。慶の領域。 恋愛という名の聖域。 それはわたしの抱く恋ごころに限りなく近く、そのくせ永遠に手が届かないほど果てしなく遠い。 そこには決して、一人では踏み込む事の出来ない場所。 遠くで、慶の声が聞こえる。 「バカね、来るならрョらいよこせばいいのに・・・・・・・ほら、こんなとこで寝てると風邪ひくわよ」 覗き込ん出来た慶の首にギュッとしがみついた。 まってたの・・・・・・・・慶・・・ 「ま、真奈??寝ぼけてるの?」 いや・・・・・・あの人はイヤ・・・・・・・ 「イヤ・・・」 震える声が唇から零れた。 「変な子ね・・・嫌な夢でも見たの?」 並ぶようにソファに腰を下ろした慶が優しく背中を撫でてくれた。 小さな頃にしてくれたのと同じように・・・・・・・・・ 「ううん、ちがう」 「なにか飲み物でも入れるわ、だから放して、真奈、ね?」 「おねがい・・・・もう少し、もう少しだけ、こうしてて」 廻してくれていた腕から離れまいと身体をすり寄せる。 慶の優しさが痛い・・・・・ 永遠の片思いが悲しい。 あんなに素敵な人なのだもの、今度こそ慶はわたしの手の届かない所にいってしまう。 ひとときの大人の恋じゃなく、きっと、永久にあの人のものになってしまう。 そんなの・・・ヤダ。 わがままだって、分かってるけど、ヤダ・・・慶。 ずっと、ずっと慶が好きだったの・・・に。 わたしには慶しか見えないのに・・・・・・・・ 「慶・・・・好きよ・・・・好きなの」 わたしの告白に慶のからだがピクリと強張った。 「私も好きよ。さあ、もう遅いわ、真奈」 くっと肩を押してわたしを引き離した慶の声はどこか冷たい。 「春菜姉さんに連絡しないと。心配掛けちゃ駄目よ、真奈」 子供を諭すような慶の口調に思わずカッとなった。 母さんと慶はいとこ同士、慶は実の姉のように母のことを慕っていて。わたしが生まれたときから慶はわたしを知っている。 わたしが慶に特別な感情を持ってるって知ってるくせに、真奈のおしめを変えてあげていたのよ、なんて事を慶は今でも平気で言うんだから。 「ほっといてよ!わたしはもう子供じゃないわ!!」 「真奈、どうしたの?今日は変よ?」 「そうやって、いつでもなんでも分かったような顔しないでよ!!わたしの気持ちだってとっくに知ってるくせに、いつだってそうやってごまかして!!! 足下に置いてあった、鞄をひっつかんで、玄関へとダッシュした。 のはずなのに、腕を取られて、バランスを崩そうになる。 「あの人って、だれのこと?」 収まった先はまたしても慶の腕の中。怒りを含んだ口調が少し恐い。 「あ・・あの人よ。真壁とか言う・・・・」 「真壁くんがどうしたって言うの?」 「わたし見たんだから!今日一緒にネクタイ見立ててたじゃない!」 「私が真壁くんとネクタイを見てたらなんだって言うの?」 慶が呆れたように溜息をついた。 わたしのことを、愚かだと思っているんだわ。いい加減子供のおもりはイヤだって・・・・・・・・・・・・・ 「もういい!」 目の奥が焼け付くように熱い。 ポロポロと零れ出す涙が恥ずかしかった。 困ったように眉根を寄せる慶が悲しかった。 いつもいつも、わたしが慶を困らせている。わがままを言い、無理を言い、部屋の合い鍵まで当然のように手に入れて。 慶の気持ちなんかお構いなしに、ズカズカと土足で踏み込んでいるのはわたしなのだから。 「もう・・いいから・・・・」 「なにが、もういいんだか・・・・・・」 歌うように慶がそう言ったかと思うと、頬に零れた涙を慶が唇でそっと拭った。 「あ・・」 当然のことに、わたしの身体がカチコチに固まった。 そのまま唇は瞼や、鼻先をかすめ取り唇の左端に降り立った。 「け・・・・・・・慶・・。・・ぅん・・・」 慶の名を呼ぶために薄く開かれた唇をなめらかな慶の唇が塞ぐ。 キスの経験がないわけじゃない。同級生や先輩とキスぐらいしたことはある。 ちっとも、大人扱いしてくれない慶に反発するように、何人もの男の子と慶に見せつけるようにつき合ってきたのだから。 でも、今までのキスとは全然違った。 男の子達の焦るような乱暴でいやらしいキスなんかとは天地ほども違う優しさと柔らかさで、慶のすべらかな舌はまるで意志を持つかのようにわたしの奥に潜むそれを誘い出し誘惑し、身体の芯まで熱くしびれさせる。 時たま隠れて飲む甘いカクテルのようなキスだった。 混沌とした意識の中で『愛しているわ』と囁いたのは、わたしだったのかしら? かちゃりと受話器を下ろして、慶はわたしの方を振り返った。 免許は持っているらしいけど、車を持っていない慶が、もう遅いからと、タクシーを呼んでくれたのだ。 自分がさっき着ていたコートに袖を通したあと、ソファーのところからわたしのコートを持ってきてくれた。 「さぁ。車が着たら帰りましょう。送って行くわ」 あれから放されたあとも、ぼーっと立ちすくんでいる私の肩に慶はふさっとコートを掛けて、もう一度優しく抱きしめてくれた。 「本気にさせたら、怖いわよ?」 わたしの髪を優しくすきながら、慶が囁いた。 「慶・・・」 「今みたいにキスだけじゃすまないのよ?」 「うん・・・・・・・」 「私は、真奈思ってるほど、優しい恋人にはなれないわよ。嫉妬深くて独占欲が強いんだから」 「・・・・・・・・・・」 「もう少し、真奈が大人になるまで、せめて高校を卒業するまで待っていてあげようと思っていたのに」 真っ赤になって俯いているわたしの耳元で、クスリと慶が笑った。 え・・・・・・・・? 今なんていったの?? きょとんと瞼を数回ぱちくりしたわたしに。 「もうずっと、前から真奈が好きだった、っていってるのよ」 「うっそぉ・・・」 「嘘だとおもう?」 綺麗にマニュキアの施された指の背で、スッと頬をなで上げられて、背筋にぞくっと震えが走った。 目の前で優しく微笑んでいる慶は今までにないほど艶っぽくて綺麗。 その返事を聞き出す前に、部屋のチャイムが華やかな音をたてた。 「行きましょうか?」 滑るようにわたしの指先を慶の指が絡め取り、玄関へと誘う。 「うん」 こっくりと頷くわたしの頬は、まだとても熱かった。
次に逢うときは・・・・・・・・・ 幼い頃から思い続けていた恋が実る、至福の時。 *END* |
*あとがき*
新境地〈笑〉でしょうか。。。
百合さんは、NET内外でもはじめて書いたんですが、いかがだったでしょうか(^^;)
氷川的には慶が結構お気に入り、男前なたて〈字が分かんない〉さんだと思っています。結構、そっちの方も経験豊かなイメージなんですが、さすがに百合さんのベッドシーンはかけません(-_-;)
え・・・・・・薔薇さんだって書けてないじゃないかって?まあ、そこは突っ込まないように〈爆〉
見つけだして最後まで読んでくださった、貴方はまさに雪ラーですv
本当にありがとうございました。
はじめてのことなので、ぜひ、BBSやフォーム等でご意見をお聞かせくだされば幸いですvvv
2001年ホワイトデー 氷川 雪乃