*** 道場の勧め ***

アウトドアの勧め番外編

 

 

「うへ・・・・・汗くせぇ・・・・」

キィッと重い戸を開けた途端にむっとした、汗の匂いが鼻について、思わず俺は口元を押さえた。

とりゃ〜!!!!!!!

ダダン!!

とーーーーーー!!!!

奇声のようなかけ声が大きく響き、竹刀を振り下ろす度に、ダン!と足を大きく踏み込む音で磨かれた木の床が揺れる。

ここは南小学校の体育館。

相澤は毎週金曜の夜、ここの剣道教室に指南しに来ているらしい。

剣道教室自体は金曜日の夜と、日曜日の午前中。主に小中学生中心に教えているんだとか。

そのことを兄貴から訊いた俺は、こっそりと練習を覗きに来ていたんだ。

南小学校は俺んちから徒歩7分ほどの所に立っている公立の小学校で、俺も通ってたけど、そういや、剣道もやってたっけって、程度の記憶しかなかった。

だいたい、こんな汗くさいスポーツ俺には一生縁なんかないとおもてったしさ。

「結構、好きな奴っているもんだぁ・・・」

戸口にたったまま、俺は30人ほどいる、未来の名剣士に視線をやった。

今は姿勢が良くなるとか言って女の子に人気があるらしいけど、どうやらここでも、半数ほどが女子のようだ。

小さい子は男女の体型の差は分からないけど、紺色の面の後ろから、馬のしっぽみたいに長い髪が覗いている子も何人かいた。

子供に交じって、師範らしい大人が4人。俺はぐるりと4人を見比べてて、たぶん、あの麻の葉模様の胴衣に紺色の袴を履いているのが相澤だろうなと見当を付ける。

相澤らしき、師範を目で追っていると、小さな子には優しいが、少し大きい子にはちょっと意外なほど厳しく指導していた。時にはぴしっと竹刀で子供を叩いたていたり。

相澤って、怒らすと恐そうだな・・・・・・・・・

 

 

「悪いな、こんなとこで、待たせて」

練習が終わり、子供たちが帰り支度をはじめると、相澤は体育館の中の方に俺を呼んだ。

練習中に俺に気づいていたらしく、終わるとすぐに「待っててくれ」と大きな声で叫ばれて、こっそり帰るチャンスを失ってしまったんだ。

俺は、早く帰りたいのに・・・・・

練習なんか見に来なければよかった・・・・・・・

今はやっといなくなったけど、練習後の相澤は少女剣士に囲まれ、まるでジャニーズのタレントなみにきゃっきゃと言われていて、なんだか見てると腹が立ってきていた。

そりゃ、俺だって、まさか小学生にまで文句言う気はないけど、中学生でも3年にもなれば、もう立派に女の子してるし・・・・・・

相澤の笑顔ってすっごく安っぽい。

俺以外になんでそんなに出血大サービスするんだよ。

相澤の馬鹿!

中には、睨むように相澤を見てる俺が気になるのか、チラチラと視線をよこしてヒソヒソ仲間内で話してるグループもいて、気分さいて−−−

その上、ようやく傍に寄った相澤はぐっしょりと汗をかいていてるしさ。

「汗くさいだろう?ごめんな」

不機嫌そうに黙っている俺に、申し訳なさそうに相澤が謝る。

俺、別に、相澤が汗くさくて機嫌悪いわけじゃないっての。

汗くさいのはそりゃ、大ッ嫌いだけどさ、相澤の匂いは嫌いじゃないから。

・・・・・・・うえ・・・・俺って変態かも、汗くさいのが嫌いじゃないなんて今おもわなかったっけ?・・・・・・・・思わず赤くなって俯いてしまう。

その俺の後ろから、

「苳真(とうま)、おしぼり、投げるぞ!」

「おう、さんきゅ」

どこからか持って来たのか、湯気の立っているタオルを、さっき相澤と一緒にいた、同年代の師範が投げてよこした。

俺の不機嫌度は更に増す。

と・う・ま、だってぇ?!

俺や、兄貴でさえ相澤って呼んでんのに、なんでこいつはなれなれしく名前で呼ぶんだよ!

振り返った俺はクイッっと、顎をそびやかせて、そいつを睨んでやった。
なのに、そいつと来たら、にやけた顔で、俺にウインクしやがったんだ。

ますます、気分わるぅ〜〜

フン!

鼻を鳴らして、相澤に視線を戻すと、相澤は、遠山の金さんみたいに諸肌をぐいっと脱いで、拭いはじめていた。

『わっ!』

驚いた俺は声にならない悲鳴を上げて、一歩後ろに後ずさったものの目に飛び込んで来るのは、褐色の綺麗な肩。首のライン、広い背中・・・・・・・

なんだかクラリとして、ボウっと・・・・見とれてしまう。

綺麗・・・・相澤・・・・・・・

「苳真!そろそろ、閉めるから早く着替えろよ」

奥にいた年輩の師範が、配電盤のスイッチを切りながら相澤に声を掛けた。

はい すぐ きがえます

相澤はきっとそう答えたんだろう。だって、俺の目の前で、さっさと胴衣を脱いで・・・・・・・・・・

うわ!うわぁあああ!!

は、袴まで・・・・・・・

カァーーーーーーーっと血が昇って、ぐらりと大きく身体が傾いだ。

「大丈夫か、よっちゃん?」

咄嗟に、裸体のまま相澤が俺の身体を支える。

「あ・・・うん・・・」

タオルで拭いたばかりの火照ったからだが俺の身体に密着して・・・・

ポタッ・・・・・

え?・・・・・・

慌てて押さえた顔に生ぬるい嫌な感触が這う。

床には点々と赤いものが・・・・・

は、鼻血?

ううわぁ・・・・

それ以上出ないように押さえたまま顔を上げたら、相澤に抱え込まれてしまった。

「仰向かない!そのまま俯いて俺に凭れて!」

相澤は馴れた手つきで、鼻の付け根を止血しながら、

「稽古場は結構熱気でむんむんするからなれてないと逆上せるんだ。そのまま、じっとしてれば、すぐ止まるからね」

返事の変わりに俺はコクコクと小さく頷いた。

赤く汚れた俺の顔を、半裸の相澤が心配そうにのぞいていた。

 

「よっちゃん!!」

「来るなっていってるだろ!!!」

鼻血も無事止まり、綺麗に顔を拭いてもらった俺はもうメチャクチャ恥ずかしくて、一目散に相澤から逃げ出したんだ。

情けない姿を見られたこともショックだったけど、相澤の裸を見てあんな事になってしまったことの方がもっともっとショックだった。

俺・・・・さいてーーーー

なんで、稽古なんか見来ちゃったんだろう・・・・・・

スケベおやじじゃあるまいし、裸を見て鼻血なんか・・・・・確かにそれまでも腹立ててたり、つまんない焼き餅妬いたりして興奮してたけど・・・・・・・・・やだやだ・・・・もう!!!

着替え終わって追いかけてきた相澤に校門の裏手に差し掛かったあたりでむんずと腕を捕まれた。

とっくに稽古も終わった夜の学校はひっそりっと静まり返っている。

「捕まえた」

「ヤダ!はなせって!」

「なに怒ってるんだ?」

「怒ってねぇよ」

「そう言うの、怒ってるッていわずにどういうんだよ?」

「いいから離せよ・・・・・帰るんだから・・・・」

情けなさに、俺の声のトーンが落ちると相澤は背負っていた大きな防具袋と竹刀を地面に下ろして、ゆっくりと両腕の中に俺を包み込んだ。

まだ微かに男らしい汗の匂いがする・・・・・・

「来てくれて嬉しかったよ」

「来なきゃよかった」

「逆上せたから?長い時間見ててくれたんだな」

優しい手が俺の背中を撫でている。

「相澤・・・・・・・」

「ん?」

「ああやっていつも女の子に囲まれて、喜んでんだ」

「喜んでる?まさか」

相澤は可笑しそうに声を立てて笑った。

「喜ぶどころか恐々としてるよ。容赦ないからねあの子たちは。今日だって、よっちゃんの事、先生のなにかって、しつこく訊かれたよ」

「お、俺のこと?それでなんて言ったんだ?」

「なんて言って欲しい?」

「し、しらねぇ・・・よ」

「友人の弟って答えた」

急にまじめな顔で相澤は俺を見つめた。

そっか・・・・・

そうだよな・・・・・・

俺は相澤にとって友人の弟なんだ。。。。。

鼻の奥がツンと痛み俺は項垂れてしまう。

「これからは、俺の大事な人、恋人だって言っても良いか?」

え・・・・・?

「よっちゃんさえ嫌じゃなかったら、いいか?そう答えても」

驚いて見上げた至近距離の相澤の顔がなんだか滲んでちゃんと見えない。

「どうした?涙なんか浮かべて・・・恋人って言われるのやっぱりいやなのか?」

「こ、恋人なんかじゃ、ねえじゃんか!」

「よっちゃん?」

「俺、相澤のことなんにも知らないし、俺も兄貴も相澤のこと名前でなんか呼んだことないのに、あいつ親しそうに呼んでたし。女の子いっぱい相澤廻りにいて・・・・・・相澤のいつもの場所には、俺、俺のいられる場所なんかなかった!」

支離滅裂な事を叫んだら、口元を相澤に覆われた。

貪るようなキスが。

廻されている腕の強さが。

相澤の気持ちを代弁するように激しい。

「義隆・・・」

やっと離された唇が初めてちゃんと俺の名前を口にした。

「よっちゃんの場所は俺のここ」

相澤は自分の胸を大きな手のひらで押さえた。

「いつでも、ここはよっちゃんのことで一杯だから。確かにほかに俺のことを名前で呼ぶ親しい友人もいるし家族も剣道を教えている生徒たちも俺にはいるけど、俺のここにはよっちゃんしか入る場所ないから・・・・・」

そっと、相澤が俺の手を取って、俺の胸に自分の手ごと重ねた。

「だから、俺にもここをくれないか?恋人だけの入れる場所を。俺だけの場所を・・・・」

返事の変わりに、ゆっくりと、俺は腕を相澤の首に廻し、小さな声で「苳真・・・」と囁いた。

「返事がまだだよ、よっちゃん・・・」

「相澤のばか・・・」

俺の方から唇を寄せる。

ちろりと舌先で相澤の唇を嘗めると反対に絡め取られて俺たちは言葉を失った。

 

俺のここも、もうずっと相澤で一杯なのに・・・・・

あの日から、ずっと、ピンクの綿埃が積もったままだよ。

苳真・・・・

 

※END※

 

皆さまこんにちは〜、管理人の氷川です。

この作品はミラリク既存の番外にてユエ様から、リクを受けたお話です。
リク内容は「相澤の裸にクラクラするよっちゃん」でした。旨く書けているでしょうか〈笑〉
鼻血までありがとうございますと仰って下さったんですが・・・ほ、ほんとによかったのでしょうか・・・汗

それから、10万からピッタリ2ヶ月で130000を迎えることが出来ました。
これもひとえに皆さまのおかげです<(_ _)>
この調子で行くと、怖いことに15万までは一月半ほどの計算になるのですよね???

う・・・・・・・何も書いてない。。。
光一朗の連載するって、おおぼら吹いたような。。。汗・汗・・・・

サイトの数字には全然釣り合ってはいないこんなへっぽこ管理人ですがこれからも可愛がってやってくださいませv

どうか、よろしくですぅ〜(*^_^*)

氷川雪乃拝