Blauer Mond story
雪の華
上宮 明






夜中に降りだした雪は、朝には膝のところまで来ていた。
空は晴天。
だけどどこから来るのか、きらきらと雪が舞い落ちた。


その日僕は不思議な少年に出逢った。
名前も知らない。
それまで、見たこともない子だ。

陽の光に照らされて、薄茶色に輝く髪。
寒さに、ほんのり紅く染まる頬に唇。

けれども彼のイメージは、全てを透過させるような肌の白。
ガラスの透明。

こんなに綺麗な子は知らなかった。

彼は紅く艶めく唇を少しだけ開くと、白い息を吐きながら言った。

「君のこと、知ってるよ」

「僕は君なんて知らない」

「それでも、僕は知ってる」

少年は深緑色で腰丈のコートを羽織り、刺すような寒さの中を軽やかに舞う。
そうして、僕に振り返って言った。

「僕にキスしたくせに、忘れたの?」

「えっ?」

僕の反応を見て楽しんでいるように笑う。
僕は憮然としない思いで、少年にきびすを返した。

「待って、逃げないでよ。もっと話をしようじゃないか」

ふわりと風を携えて、僕の前に回り込む。

「何言ってるんだ。突然僕の目の前に現れて、僕をからかっているのか」

「そんなんじゃないよ、そんなんじゃない。僕はただ」

少年はそこで言葉を切って、僅かに視線を遠くへやった。

「ただ、なんだよ」

僕が吐き出す白い息も、少年が吐き出す息も、ゆらゆらと青い空に昇っていく。
言葉を待つ僕に少年が口を開いた。

「君、冬の華で、何が一番好きだい?」

「何だい、唐突に」

「いいから。何が好き?」

紅い頬の彼は、寒さを苦にも思っていない笑顔で僕の返事を待つ。

腑に落ちないながらもしばし考えて、

「・・・スノー・ドロップ」

僕は短く答えた。

その答えを聞いた少年の顔から、一際笑顔がこぼれる。

「よかった、その答えが聞きたかった」

そう言うと少年は、突然僕の腕を引いて、冷たくなった左頬に紅い唇を押し当てた。

「じゃあね!」

そう告げると、突然彼は走り出した。
僕は慌てて後を追った。
けれども、少年の姿はどこにだってなかった。
そう、どこにだって。

走って、走って、走って、僕がやってきたのは。

いつか来たことのある『この場所』。

冬になると、一面に咲き誇っていたスノードロップが眩しい公園。
もう、あの華達は、消えてしまったけれど―――――。

僕は工事用の資材の間をかいくぐって、奥へ奥へと入り込む。

そして、見つけた。

たった1輪で咲く、眩しい白の華を。

それはまさしく雪の華。

スノー・ドロップ。

「あいつは・・・・・・」

僕がそう呟いたとき、晴れた空には雪が舞って、足元の白い華をさらさらと揺らした。



END






*上宮明様*

WEB開設以前から、明ちゃんには一方ならぬお世話になりっぱなしで、本来、寄贈品を頂くより以前に私が何か差し上げるべきなのに・・・・・・・・こんなにステキなプレゼントをくださるなんて、本当に有り難う〈嬉泣〉。

*お客様各位*

この作品を見ていただいている方で、まだ〈Blauer Mond〉に遊びに行ったことがない方、是非、雪乃のリンクを使っていってみて下さい。決して後悔はしないはず。氷川雪乃がドンと太鼓判を押させていただきます〈笑〉