硝子の扉 bP

 

俺達の関係を人はなんと呼ぶんだろう。    

俺はいつの間にか、ここに週の半分は住み着いてしまっていた。  

両親とも、小さな弟を連れて海外赴任に赴いている静(しず)のマンションは俺が転がり込んだところで五月蠅く言う外野などいなかったからだ。  

その事を静がどう思っているのか、俺のことを静がどう思っているのか俺は一度も訊いたことがない。  

訊けばすべてが終わってしまうような、そんな脆さが俺達の間にはある。  

全ては俺がしたことに起因するのだから、全ての責任は俺にあるんだけれど・・・・    

「修(しゅう)、ごめん、悪いんだけど、そこにかけてある、グリーンのフリース取ってくれない?」 

狭い脱衣所に隠れて着替えをしていた静が、決して見飽きることのない可憐な顔をドアの隙間から半分覗かせて言った。

「ああ?いいけど。でも、なんでだよ?そのズボンならそっちのパーカーのが色合ってるじゃん」  

ハンガーからフリースを外しながら、持っていった俺に、

「う・・・うん。なんでもないんだ。ごめん」 

僅かに開いてる扉から、フリースを受け取るために右手を覗かせた状態で静は返事を返した。

「変な奴、何が変なのか見せて見ろよ」

「いやっ!」  

笑いながらドアを開けようとした、瞬間、静がびっくりするような大声を出した。

「静?」

「あっ・・・・ど、どなったりして、ごめん」  

俺が驚いている間に、パタンと扉が閉ざされた。  

俺達の間に出来てしまった見えない扉。  

いつも俺と静を隔てているガラスの扉。    

 

あの日、俺は静の全てを手に入れたと思ったのに・・・    

 

目の前で閉ざされた扉と同じように、俺と静の間には堅くて冷たいガラスの扉があの日からしっかりと閉ざされている。  

あれほど俺を慕い、何もかもさらけ出してくれていた静があの日を境に二度と俺に心の扉を開いてはくれなくなってしまった。    

「じゃあね、バイトに出るとき、鍵閉めていって、僕はたぶん遅くなるから」  

小さな玄関の框に腰を下ろし、茶色い革のローファーを履きながら、静が小さな顔を上げた。  

しっかりと一番上までジッパーがあげられた、濃い緑色のフリースを見て、俺が昨夜、静の白い首筋に幾つかの印を付けたことを思い出した。   

それで、パーカーからフリースに変えたのか・・・・    

嫉妬という名の苦渋が俺の口内に沸き上がる。

「なんで、遅くなるんだ?今日は午前中しか講義なかっただろう?」  

アイツと会うからか?静。  

アイツに見られたくないから、しっかりと俺の印を隠すのか・・・・

「・・・・よして、修」  

諦めのような溜息が俺をなおさら煽り立てる。

「静・・・お前は俺のもんなんだぞ!」  

黙ったままの静を後ろからきつく抱きしめた。  このまま、腕に力を込め続けたら、静の華奢な身体なんか粉々に壊れてしまいそうだ。   

 

いっそ壊してしまおうか・・・・    

 

そんな狂気が俺の根深いところで沸々と沸き上がってくる。

「わかってるよ。だから、離して・・・修。

・・・・・遅れちゃう」  

小さく抗う仕草が、カッと俺に火を付けた。

「一限目、ふけろよ、な、いいだろ」

「だ、ダメだよ・・・んっ・・・」  

ねじ伏せるように押し倒して、否定の言葉を無理矢理塞いだ。  

俺と静の力の差は明白だ。  

体重差も10キロではきかないだろう。

「やっ!!しゅ・・・修!嫌ぁ・・・」

「うっせぇんだよ!!」 

何度か抗おうと組み敷く俺の下で静は精一杯の抵抗を試みた後、いつものように、静に身体から力を抜いて横たわった。  

まるで、何もかも諦めてしまったように、ひっそりと息を詰めて、俺が果てるまで、静はいつものように眉を顰めて苦痛に耐えるんだ。

「・・・・もう・・・いいの?」  

狂ったように静を貪り、込み上げてくる激情を静の奥深くに激しく迸らせて荒く息の上がった俺に、静は俺の肩口で横を向いたまま小さな声で訊いた。

「・・・ああ」

「じゃあ、僕、出かけるから・・・」  

早くどいてと言外に匂わして、静は身動きのとれない身体を、堪らなく不快だと言わんばかりにビクリと身震いさせた。  

その冷たい声と、なんら、快楽の後など見せないストイックな表情を見た途端、いつもと同じように静の身体の上にぐったりとのし掛かり甘いけだるさが残る身体に、堪らない虚しさが覆い被さってくる。  

 

手に入れたはずなのに・・・  

俺だけの静にしたはずなのに。  

静は俺を受け入れるどころか、もう、泣き叫ぶことすらしなくなってしまった・・・・

 

「うっせぇな、そんなにアイツにあいたけりゃあ、さっさと行けよ!」  

ゴロリと、静の上から降りた俺は、いつもの虚しさを怒りに変えて、大きな声で怒鳴り返した。  

 

手に入れた筈なのに・・・こんなに愛しているのに・・・・  

 

性急で乱暴な行為のせいで痛みがあるのか、不自然な動きで身仕舞いを正した静は、悲しげな瞳で俺を見詰めてから、何も言わずに重いマンションのドアをパタンと閉じた。  

 

 

ひゃぁ〜(><)のっけからの危ないシーンです。。。

え?これぐらい危ない内に入らない?あっはは!ごもっともでございます〈笑〉

いつの間にかボタンを掛け違いちょっとずつ歯車が狂っていくお話が書きたいなと、書き始めたお話なんだけど・・・・・・思わくどおりにいってるのかしら???

「唇・・」とは全くタイプの違う連載なので、是非ともみなさんのお声がお聞きしたいです。

どっちが好きとか嫌いとかだけでも構わないのでチョロリンとでもカキコして下さると嬉しいな♪