Crystals of snow story
*煌めきの銀河へ*
(4)
「お、俺、こうやってあんたに地球5につれてってもらえるんだってかなりラッキーなことだって思ってる。色仕掛けでだまして乗せてもらってるんだから、とうの昔に放り出されても文句は言えないんだって事も。
で、でも、本当はいくら地球5に行けたって2万ギルなんてむりだって事、いくら世間知らずの俺だって解ってたんだ。
だけど、あんたならそのくらい軽く稼げるだろ?お願いだ<お、俺、使いっ走りでも何でも、あんたのいう通りにするから頼むよ!」ブラッドの引き締まった足に縋り付きながら、フィルは必死の形相で頼み込む。
ブラッドは膝の上で細かく震わせているフィルの細い肩や髪を何故か優しく手のひらで撫でてやった。
「かわいそうだが、それはできない」
優しく、だがきっぱりと断言する。
「どうして・・・?」
顔をあげたフィルの潤んだ瞳は紫の霞がかかり、ブラッドの手の中の髪もすでに密色を増している。
「おいおい、もう色仕掛けはなしだ」
両手をフィルから離し降参するように顔の横まで挙げた。
ブラッドが何を言っているのかよく解らない様子で、ゆっくりとブラッドの膝から立ち上がったフィルは、そのとき初めて自分の変化に気がついた。
「違う!違うよ!そんなつもりじゃない!」
滑らかな乳白色の頬をみるみるバラ色に染めて、必死になって否定している姿は、この宇宙のどんな男でも、自分がこの娘を守ってやりたいと願うだろうと思わせるほど愛らしい。
「もう一度訊くが、金を稼ぐのが無理だと思っていたんなら、どうしてこんな無茶までして地球5に行こうとするんだ?」
「もう、家に居られないんだ。無理矢理女にされちまう。
「わからんな。後二年、有ったんじゃないのか?」
「普通はね。だけど、俺のおやじが借金のかたに俺を伯爵に売ったんだ」
すでに少年の姿に戻っているフィルはドッサリと副操縦席に座り込むと、喰いしばった歯の間から絞り出すように言った。
「借金のかたに売られるだって?まるでお伽話の世界だな。まあ、女になったお前を欲しがる男の気持ちは、同じ男として俺にも十分解るがな。だがな、地球5みたいな都会に行ったとしても、今みたいに無意識のうちに女の姿に変わるんだとしたら、手ぐすね引いて待っている狼の群に飛び込むようなもんだぞ」
「俺、普段はあんな事絶対ないんだ。いつもはちゃんと自分でコントロール出来てるのに・・・」
ほんとに俺、どうしちゃったんだろう。
はじめは、ともかく家から離れたい一心だったフィルの胸に、言いようのない灰色の不安が広がる。
「2年、ううん、長くても3年、隠れれさえすれば1/2の確率で男になれるんだ」
両手の拳が白くなるほど胸の前で握りしめて、自分自身に言い聞かせるようにフィルはつぶやく。
「それはその頃になったら自然に性別が決まると言う事なのか?」
「あ・・うん。5、6百ねん前まではずっとそうだったんだって。でも激しい星間戦争があって男の人が少なくなって、今みたいになったって。
だから、ほっとけば自然にどっちかに決まるんだ」しばらく顎に手をおき深刻な表情でなにやら考えていたブラッドは、
「は〜、なんで、こうなるかな・・・・」
またもや、漆黒の髪を掻き上げながら溜息をつくと、フィルの瞳をのぞきこんで言った。
「俺は、どういう訳かお前を狼の群の中にも、何人も女のいる脂ぎった助平おやじのところにもほうりだせそうにない・・」
不安に 曇っていたフィルの顔が希望に充ちてくる。
「お前を連れて仕事に行くと言うのは、ぜったいに無理だ。俺はずっと一人でやってきたし、俺にはレイラがいる」
フッとレイラに信頼に満ちた視線をやり、その頭に手を載せて続ける。
「地球5についたら、俺たちのフラットにいるといい。俺とレイラは、仕事が入ると数ヶ月留守にするが、お前はうちにいて留守の間の連絡係をしてくれればいい。2年経っても男になりたいお前の気持ちが変わらないようなら。金は俺が都合してやる」
「ブラッド!」
フィルは飛び上がるなりブラッドの逞しい首にしがみついた。
「ああ、ブラッド。あんた俺の救世主だ!」
興奮して夢中で叫ぶフィルの髪がまたしても蜜色を濃くし始めた。
その背中をブラッドは意味ありげにポンポンとたたく。
きょとんとしているフィルにブラッドはニッコリと極上の笑みを向けると、あきれるほどにこやかに言った。
「なあ、フィル。お前、俺のフラットに居るつもりなら男のままで居ろ。
いいかこれだけは絶対に忘れるな。
俺も腐るほどいる狼の中の一匹なんだからな」ブラッドはぽかんと口を開けているフィルに向かって操縦席の肘掛けに頬杖をつきながら格好良くウィンクを送った。
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他作品はどっちかというと、最初から恋愛モードの物が多いですので、格好いい攻めさんでも中に恋の苦悩みたいな弱さがありますよね。
ブラッドはその点、色恋関係ないので、いかにもーな格好良さでしょ(*^_^*)