Crystals of snow story

*煌めきの銀河へ*

(5)

 

またしても気づかない間に変化している自分に驚いて、

「あっれれ?おっかしいなぁ・・・?」

フィルは眉を寄せて、ぶつぶつと独り言をいいながら、かなり長い間狭い船の中を行ったり来たりしていた。

「ブラッドにしては、めずらしわね。滅多に他人をフラットに入れないくせに」

そんなフィルの様子に、からかうようにレイラが金色の瞳を輝かせた。

「はは、まったく、世話の焼けるガキを背負いこんじまったな」

言葉とは裏腹に、頭の後ろで腕を組みながら背中を背もたれに預けたブラッドは、愛しそうな眼差しでまだぶつぶつと独り言を呟いているフィルを見つめていた。

たしかに、美少女姿のフィルはどの男でもくらりとくるほど綺麗なのだが、ほっそりとした少年の姿のフィルは、遠い日の記憶を蘇えさせる。

忘れていた・・・・遙か昔。

まだ、レイラが人間の姿をしていた、あのころを・・・・・・

「ねえ、ねえ、ブラッド。俺さあ、こう見えても結構料理とか出来るんだぜ!地球5に着いたらまかせといて。レイラとブラッドが目回すほどおいしーもん作るからさ」

張っていた気持ちがほぐれたのだろう、フィルはゆったりと椅子に腰掛けて楽しそうに物思いに耽っていたブラッドとその足下で、ゆったりとくつろいでいるレイラに話しかけた。

そのあとも、フィルは、テラ5についてからの、新しい生活を夢見がちに色々と提案していた。

そのさまは、見た目の整った容姿よりもずいぶんと、子供めいていて、ながいあいだ、殺伐とした仕事を請け負っているブラッドの心を和ませた。

時折、言葉少なにあいずちを打ちながら操作パネルを見ているブラッドの横に寝そべっているレイラも、邪気が無く可愛らしいフィルが気に入ったのか、地球5の様子などを乞われるままに話し聞かせてやっていた。

 

小一時間ほどたった頃、ブラッド背中に突然緊張が走り、計器を操作する動きが急に忙しく素早くなった。

すでにレイラも床から突起している専用の計器のまえに陣取り、前足を使って器用に機械を操作している。

「めずらしいわね、クライアントを乗せていないときに尾行されるなんて」

「ああ。パネルに船の映像を出してくれ」

「解ったわ、ブラッド」

メインスクリーンに小型ながら最新式の艇が映し出された。

「向こうが交信したがっているわ、交信モードに切り替えましょうか?」

「そうだな・・・・・・ん?どうしたんだフィル?」

ブラッドの問いには応えずに、副操縦席に座っているフィルは真っ青な顔をして、小型艇の映像を睨み付けている。

一瞬の後、スクリーンの中に薔薇でも背負って出てきそうなほどっゴージャスで華麗な男の姿が映った。

しばし、ソフィア号の中に、何とも言えない沈黙が流れた。

・・・・・・・・・・・・・・

「ブラッドではないか?」

最初に口火を切ったのは、追跡してきた挺の男だった。

「・・・・・・・・・・・ロレンス<」

ブラッドが小さく叫んだ。

「どうしてそなたの船に姫がいるのだ?」

ロレンスと呼ばれた男は、今にもスクリーンから飛び出て来そうな勢いでブラッドに噛みついた。

「姫ぇ???もしかして、フィルのことか?」

「そうだ!私の大事な姫をどこに連れていく気だ!事と次第によってはいくらそなたとはいえ容赦はせぬぞ!」

黄金の髪をきらきらと燃え立たせ気高く美しい顔を怒りに震わせているさまは、差詰め激昂する炎の化身のようだ。

「お前・・・ロレンスの大事な姫なのか?」

ブラッドは思いがけない旧友の出現と、フィルのただ事ではなさそうな関係に天を仰いだ。

もちろん、ソフィア号の場合、360度すべてが天なのだが。

「ち、違う。ぜっ〜たいに、ちがう!」

ぶんぶんと横に首を思いっきりふり、スクリーンの中の美貌の男を、フィルは険しい表情でキッと睨み付けた。

「伯爵!!!いい加減にしろよな!
あんたが俺のことをどう想ってるのか、昨日十分わかったよ!
おやじがあんたになにをどう云ったのかしらねえけど、俺はあんたの姫なんかじゃないし、これからも絶対にあんたの姫なんぞになる気はないからな!」

腹の中のものを吐き出すように、いっきにまくし立てるフィルを、琥珀色の燃える目で見詰めていたロレンス・デ・アルフォンヌ伯爵は、フィルの言葉にみるみる精彩をなくした。

「昨日のことは・・すまなかった・・・そなたが、あまりに聞き分けのないことばかり申すから・・・。
二度とそなたの望まぬ事はせぬと誓う。わたしのもとへ戻っておくれ」

アルフォンヌ伯爵は哀願するようにフィルに頼み込んだ。

「今更しおらしくしたってもう遅いよ!ずっと俺を騙してたくせに。
男になりたがってる俺の唯一の理解者だって、ずっと俺に思わせてといて!
ずっと俺に本当の兄さんだと思えなんて調子のいいこと言ってさ。婚約しておけばほかの奴が言い寄ってこないからカムフラージュのためにしておこうなんて、聖人君主みたいに真面目なふりして、あんたを信じ切ってた俺を騙してたくせに。
挙げ句の果てになんなんだよ?オヤジの借金を肩代わりしてやる変わりに、婚約だけじゃ飽きたらず、18になる前に婚礼を済ませろだって?
バカにすんのもたいがいにしろよな<幾ら今更上手いこと言っても、あんたの言葉なんか、二度と信用してやるもんか!」

全身から高貴さを漂わせるアルフォンヌ伯爵に何の遜色も感じさせないほど、高慢ささえ滲ませて、凛とした態度でフィルは言い放った。

「もしかして・・・こいつが・・例のスケベ親父なのか?」

ブラッドは数少ない信頼に足る親密な麗しい友人から目を離さずに、小声でフィルに訊いてみた。

「そうだよ。ブラッドは伯爵の知り合いなの?」

「ああ。俺が信頼している数少ない友人だ」

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