Crystals of snow story

*10年分のチョコレート*

2001バレンタイン企画

「そう、そうよ、ゆっくりかき混ぜるのよ」

ぬるま湯に浸けたボールの中で溶かしたチョコレートを僕はゆっくりと木ベラでかき回す。

「ママ、もう、トロリ−ンってしてるよ〜」

後ろに立って手元を覗いている、ママを振り仰ぐ。

ママが、ちょこっとラム酒とか言うお酒をふってくれたチョコレートは、トローリ、トロリン、甘くいい匂いがするよ。

「じゃぁ、型に流し込みましょうね。鈴ちゃんには難しいだろうから、ママが入れてあげるわ。
鈴ちゃんは型をテーブルの上に並べてくれる?」

「はぁ−い、ママ」

お台所の戸棚から、大きなハート型の型を取りだして、ママの傍に置いた。

「大きなチョコレートが出来るわね。きっと研クン喜んでくれるわよ」

ママはニコニコと微笑みながら、レードルとか言う片一方が細くなっているお玉でチョコを流し込んでいる。

「研くんにあげるんじゃないよ、ママ」

「あら?そうなの?鈴ちゃんがバレンタインのチョコレートを作りたいなんて言うから、ママてっきり研クンにあげるんだと思っていたわ。研クンじゃないなら誰にあげるの?」

驚いているママに、僕は少し照れながら答えた。

「眞一さんにあげるんだ」

「あら・・・・・・・」

ママの表情がほんの少し曇る。

「ママ?」

「あのね、鈴ちゃん。眞一くんにあげて、研クンにあげないなんて、ちょっと酷くない?」

え・・・・・・酷いって・・・どうして?

「もし、鈴ちゃんにお兄さんがいて、研クンが鈴ちゃんにはくれないのにそのお兄さんにチョコレートをあげていたら、ちょっとイヤじゃない?だって、研クンと鈴ちゃんはとっても仲良しさんでしょう?」

研クンがもしも?

う〜ん・・うううぅ〜〜ん・・・・

僕は、腕を組んで頭を左右にふりながら、空想上のお兄さんにだけ研クンがチョコを渡している所を思い浮かべてみた。

うん。ママ、きっとイヤだよ僕・・・・・

「うん。僕、研クンにもあげる♪」

「じゃぁ、も一個作りましょ。ほら、早く型取ってきてちょうだい。チョコレートが固まっちゃうわ」

大きく頷いた僕は、急いで型を取りだした。

五粒目も食べる?