Crystals of snow story

*10年分のチョコレート*

2001バレンタイン企画

「鈴ちゃん!どっしたの?!」

ぼやけた視界の中、声で緑色の固まりがグリーンのトレーナーを着た研クンだということに気がついた。

「エッ・・・エッ・・・け、研・・くぅん〜。わぁ〜ん!!!!」

僕は研クンにしがみついて大声で泣きだした。

明るい緑色の服地に涙が染み込んで黒く染まる。

「えっく・・・ご、ごめん・・・・・・よ、汚しちゃった・・・」

「いいって、そんなの。また、あいつらにいじめられたのか?」

しゃくりながら、謝る僕の背中を優しくよしよししながら、研クンは訊いてくれた。

「違うの・・・あのね、あのね・・・僕ね・・・・・・」

時折しゃくりあげ、言葉に詰まりながらも、僕は一生懸命、研クンに話した。

昨日、ママと一緒にチョコを作ったこと。

眞一さんにそれを渡しに来たこと。

小学生の女の子達に酷いことを言われて、チョコが割れちゃったこと。

「くっそ!あいつら〜」

話し終わると研クンが唸るように呟き、悔しそうに顔を歪めた。

「ごめんな、すずちゃん・・・・
俺がもうちょっと早く気づいてやってれば、チョコ割れずにすんだのに・・・・鈴ちゃん、おばさんに教わって一生懸命作ったんだろう?」

「うん・・・・・・・・いたいよぉ・・・研クン」」

メソメソ泣いていた涙を研クンはトレーナーの袖口で拭ってくれたんだけど、ごしごし拭かれて、お顔が痛い。

「へへ、ごめん。
それよかさ、割れたって、食べれるだろ?俺がちゃんと兄貴に食わせてやっから、な、もう泣くなよ、鈴ちゃん」

僕の手からそっと袋を取り上げて、研クンは『まかせな』と胸を張った。

「あれ・・・・・鈴ちゃん、ふたつ有る・・・・・・・」

「いっこは、研クンにあげるの」

「へ・・・・?俺に??」

「うん」

「食ってもいい??」

パッと顔を綻ばせて、研クンが袋を覗き込んだ。

「え・・・でも、割れちゃってるんだよ〜」

「いいって、食ったら一緒だってば。
うわぁ、アッメェ〜!!旨いなぁ〜鈴ちゃん、じょうずに出来てるよ。
ほら、一欠片食ってみなよ」

破顔しながら、研クンが僕の口にチョコの欠片を押し込んだ。

甘さがゆっくりと溶けだして、口の中に拡がる間も、研クンは嬉しそうにニコニコと、チョコをほおばり、嬉しいなと繰り返している。

割れてしまった、チョコレートなのに。

ママに言われなかったら、作らなかったチョコなのに・・・・・・・

小躍りして喜んでくれてる研クンを見ていたら、さっき止まったはずの涙が、またはらはらとこぼれ落ちてくる。

「鈴ちゃん!え、どうしたん?なんでまた泣くんだよぉ」

「ごめんね、研クン・・・・・・ごめんね・・・・・」

さっきとは違う、暖かい涙が止まらない・・・・・・・・・・・・

お口の中のチョコレートは甘くて、切なくて、ほろしょっぱい味がした。

訳が分からずに、心配顔でおろおろしだした研クンに、僕は再び抱きついておいおい泣いた。

初めてのバレンタイン。

ほろしょっぱい、涙味のチョコレート・・・・・・・・・・

おまけも食べる?f