Crystals of snow story
*晴れた日には新しい靴を履いて*
「な、なんだよ!何が可笑しいんだよ!!!!」 目の前で綺麗な顔を苦しげに歪めて笑ってるのは、僕の義兄であり、僕のたぶん・・・・・恋人。 蝋人形館にスッと立っていたって誰も気づかないであろうほどの作り物めいた美貌の持ち主、浅野史郎。 それは僕も知ってるし、今でも昔みたいに僕の知らないところで女の人と遊んでるのかもしれないとも思ってる。 だけど、何も僕の目の前で、櫻綾の下級生にこれ見よがしな態度をとることないよね!!! 名前も女の子みたいだけど、見た目も・・・・・悔しいけど可愛い。 ともかく、なんでだかしんないけど、この子が最近やたらと史郎の回りをうろついてて、今だって僕が学食に入ってきたら史郎と仲良く並んで座ってるんだから、あったまくるよね。 そのくせ、僕が側にいったら、甘ったるい声で『史郎先輩、また後でね。おじゃましました〜』って行っちゃうんだよ? だいたい、また後でって、それってなによ? 「また後で、ってなに?あの子とデートの約束でもしてるの?」 大好物の狐うどんを啜りながら、史郎にチクチクと聞いてものらりくらりとはぐらかされて腹の立った僕は思わず言ちゃったんだ。 「なんだよ。はぐらかしてばっかり!!! そしたら、あの、馬鹿笑い・・・・・・・・ 絶対、絶対見返してやるんだから!!! ☆★☆
大きな瞳の中に真剣な顔の僕が映っている。 そんな、鈴ちゃんのOKの返事に、一瞬教室内にざわめきのウェーブが走った。 僕がちらりと窓際に目をやると、いけ好かない史郎と来たら、教室中に吹き渡る、騒ぎなんかどこ吹く風と言わんばかりに、素知らぬ顔で校庭の方を見ていた。 待ち合わせの時間より5分早く、駅前にある液晶ビジョンのまえにたどり着くと「おはよう」っと軽やかにかかる涼やかな声。 頭の中でハテナマークを踊らせながら、横にいる鈴ちゃんを見てみると、なんだかいつもと雰囲気が違う。 シャープな白いシャツにぴったりしたブラックのパンツに同じ素材のジャケット、足下は少しヒールのあるショートブーツを履いてるせいで、普段は僕より5センチほど高いだけの身長差がなんだかずいぶんあるような感じ・・・・・ それより何より、なんだか、普段より格好良くないかい? 元々、ちびな僕に比べると鈴ちゃんは別段背が低い訳じゃないんだ。東森君がいつも横にいるから実際よりは低めに感じるけど、中学の時よりずいぶん伸びて今は170そこそこあるんじゃないかな? 「うん?そうだね、ヒールが少しついてるから。でもこれ履くの今日が初めてなんだよ。孝太郎君とのデートのために新しい靴をおろしてきたんだ」 テナントビルの最上階にある、映画館専用のエレベータが止まると、僕はここからがエスコートの見せ所とばかりに、チケット売場に足早に向かった。 ところが、クイっと肘を後ろにひかれて振り向くと、鈴ちゃんがにっこり笑って、なにやら、細長い紙片をひらひらさせている。 株主優待券・・・・・そういえば、金持ちの子息が多い櫻綾でも鈴ちゃんは群を抜く超おぼっちゃまでした・・・・ その後も一時が万事その調子で、普段史郎に冷たく扱われてる僕は鈴ちゃんをエスコートしようなんて当初の目的を忘れて、鈴ちゃんのナイトぷりになんだか、どきまぎしてしまうしまつ・・・・・・ だって、だって、もう5年のつき合いだけど、こんなに真側に鈴ちゃんの顔をじっと見たことなかったけど、本当にため息が出るほど綺麗なんだもん・・・・それも、史郎みたいに冷たい綺麗さじゃくて、可憐っていうか・・・・なんていうか・・・・・・ 映画も見終わって、なんだかめっちゃ高そうなレストランで食事して〈鈴ちゃんったら、オーナーシェフが挨拶にくるんだもんな〜乙羽さまのおぼっちゃま、おひさしぶりでございますだって、かっこいいよね〉夜になったらラウンジになるって言う、眺めのいい場所に座って午後の紅茶を飲む頃には、僕はすっかり鈴ちゃんの魔法にかけられて、ぼーーーっとっなっちゃったんだ。 女の人より、ほんの少しだけ、低めの心地よいささやき。 時折僕に触れる柔らかな指先・・・・・・・ 鼻孔を掠める甘い薫り・・・・ ポワンっとしながら、鈴ちゃんに見とれてると、 「孝太郎君って、ほんと、可愛いよね」 さっきのレストランでもそうだけど、こういうとこって何でだか向かい合わせに座らずに四人掛けのテーブルでも横に座るから、鈴ちゃんとの距離はとても近いんだ。 だって、僕、真っ赤になってコクンとうなずいちゃったんだもん。 いつの間にか鈴ちゃんの横に立っている東森君が、あきれたような顔で、 僕の方はばつが悪くて、史郎をまともにみれないし、史郎はといえば、苦虫をかみつぶしたような顔であらぬ方向を向いている。 もうちょっとで、キスまで許しちゃうところだったと思い出して、カッーーーっと頬が熱くなった。 「もしかして・・・・鈴ちゃん、最初から知ってたのかな、史郎たちが見てるって」 「だろうな。研二に無理矢理引っ張られてつれて行かれた訳が何となく分かったよ。おまえ危なっかしすぎ・・・・・・」 僕を一睨みして、史郎がこつんと僕のおでこを叩いた。 へへ、僕って変なの。叩かれたのになんだかちょっと、嬉しかったり・・・・・ にしても、東森君って・・・・・・僕より苦労するかも・・・・ だって・・・・・この後、僕はちょっとばかし妬いてくれたことを喜んだのを後悔するほど、さんざん史郎に虐められて・・・・・・ 〈END〉 |
このお話は「花衣」終了後の番外という設定です。鈴ちゃんかなり小悪魔ぶりを発揮〈笑〉
私のイメージの鈴はどっちかっていうとこういう鈴なんです。研の前ではすっごく可愛いけど、ほんとは少し得体の知れないところがあるの〈笑〉
さて、孝太郎はどうなったんでしょう。
慣れない靴履くと靴擦れしちゃうのにね〈笑〉