かわいい恋人
中編
恋人シリーズ・澪&雅之
「こら、小僧。こんなとこで何してるんだ?」
昨日の夜、伸司さんからバトンタッチされたルルを俺は、こっそりと南さんと病院に持ち込もうとしていた。
光一朗に頼まれた伸司さんがとりあえず餌や水はやってくれていたから、ルルの体調はどこも悪くはないんだけど、俺が病院の消灯時間がすぎたあとマンションにいくと、すっごく寂しそうな顔で俺の足下にじゃれついて、何度も、何度も、か細い鳴き声で訴えるんだ。
「光一朗、すぐ戻ってくるからな、ルル・・・」
抱き上げて、何度も言い聞かせてはやるんだけど、きっと、伸司さんも餌をやるときに言ってやってくれてたとは思うんだけど・・・・・
ルルは、大きなサファイアの瞳を悲しそうに翳らせて、俺の顔に鼻先をこすりつけてくる。
なんども、なんども、光一朗はどこ?って俺に訴えてるみたいに・・・・・
ここんとこ、ずっと、光一朗に会えなくて、寂しかった俺は、ひとりぼっちにされていたルルの気持ちが痛いほど分かって、言葉の通じないもどかしさに、胸が痛くなる。
結局夕べは俺の家にルルを連れ帰り、病院の午前診療が終わって、人の波がある程度ひくころを見計らって、俺はこっそり、ルルを持ち込もうとしていたんだ。
検査と事故の経過観察だけのための入院だから、光一朗は歩行にも全く問題がないから、本館の非常口のすぐ側にあるこの雑木林に少しの間隠しておければ、ルルを光一朗に会わせてやることが出来るとおもったんだ。
ルルも、俺の気持ちをわかってくれたのか、さっきから「ミ−」とも「ニャ−」とも言わずに静かにしてくれていたのに・・・・・・・・
後、一歩と言うところで、病院の職員らしき白衣の男にみつかっちまったってわけだ。
「何をしてるんだと聞いているんだが、お前には耳がないのか?」
少々、高飛車に、男の低い声が、もう一度言った。
まぁ・・・・確かに、端から見たら、こんなところで、雑木林の隙間をうろうろしてる俺は不審人物に見られてもしかたねぇけど・・・・・
とっさに、ルルの入ったバスケットを後ろ手に隠して振り返ると、文字通り真っ白な白衣を着た長身の男が俺を見下ろしている。
光一朗や類さんに見慣れてる俺は、男であれ女であれ滅多に誰かを綺麗だなんて思わないけど、銜えたばこのまま、目の前でじろりと俺を見下している男は背筋がぶるっとなるほどの男前・・・・
ただ、すっげーーーー、美男だが、氷のような冷たい綺麗さはどこか酷薄そうで、正直あんまりお近づきになり無くないタイプかも。
そのうえ、その男と来たら、俺のことを、まるで、一枚一枚剥がしていくかのように、ジロジロと眺めやがったんだ。
「ま、美少年にはほどとおいが、お前、その真っ黒な目がいいな。ぎりぎり合格ラインってとこか」
はぁ〜??なにいってんだよ、この人??
「先生・・・・・・また馬鹿なことばっかり・・・・ゴメンね、君。それより、本当に、こんなとこで何をしてるの?それって・・・・もしかして?ネコかなんか?」
ひょいっと、男の広い背中から顔を出したのは、俺と同じぐらいに見える、男の子だった。
でも、やっぱり白衣を着てるから、俺より年上かもな・・・・・
その人はさっきからずっと、男の後ろにいたみたいだけど、小柄な所為で、俺からは全然みえなかったんだ。
「ネコだと〜??よしてくれ、俺はネコなんかだいっ嫌いなんだなんだからな。おい、児玉、さっさと守衛よんで追い出してしまえ」
先生とよばれた男は、いかにも不愉快そうに、大仰に眉をひそめた。
「先生はあれ以来ネコ駄目なんですよね〜」
くすくすと男に笑いかけて、
「でも、どうしてつれてきたりしたの?ココに持って来ちゃ駄目だって、知ってるよね?」
児玉さんは、バスケットの、ふたを開けて、中をのぞきみパッと顔を綻ばせた
。
「わぁ・・・・・かわいい・・・チンチラかな?なんて名前?」
「ルルっていいます。種類はたしか、そんなのだったと思うけど・・・」
「ルルちゃんか〜、こんにちは♪思うって・・・君のネコじゃないの?」
「うん。飼い主が、ここに入院しちゃって・・・・俺がすぐ帰って来るっていってやるんだけど、通じないし。こいつ、なんか凄くさみしそうだったから・・・一目会わせてやりたくて・・」
俺が言いよどむと、
「お前バカじゃないのか?ネコに言い聞かせて通じるわけないだろう。言い聞かせたけりゃ、ドラ○もんに翻訳こんにゃくでも貰ってこい」
先生は、バカにしたようにそう言うとくるりと本館の方に、きびすを返し、
「こい、小僧」
軽く頭を振った。
ついてこいって・・・・言ってるみたいに。
「え・・・ええ?」
びっくりして、児玉さんの顔を見ると、柔らかく微笑んで頷いている。
「ああ見えてもね、澪先生優しいとこ、あるんだよ。
先生が一緒なら、誰にも止められることないから、ルルちゃんつれてついておいでよ。で、その飼い主の部屋番号は?」
まだ、話の展開についていけない俺に、にこやかに尋ねた児玉さんは、俺から光一朗の部屋番号を聞き出すと、澪先生とやらの側に駆け寄って俺たちを先導してくれたんだ。