5万HIT記念連載小説
******アウトドアの勧め ******
(第 1 話)
「くぅっ・・・・・・・・はぁ・・はぁ・・・ぁあ・・・相澤ぁ・・もぅ俺・・・ダメぇ・・・」
「・・あとちょっとだから。ホントにもうちょっとだけだから。な?我慢しろよ」
「いや!ヤダァ。俺、もう・・・我慢できないぃ〜」
「よっちゃん・・・そんな声出すなって・・・」
「だぁってぇ・・・辛いんだもん・・」
「しかたないなぁ。ほら、そっちの荷物、持ってやるから、さあおいで」
よれよれになって、急な斜面の山道にべったりとしゃがみ込んでしまった俺は、額にびっしり汗をかいてるのに、どう割り引いて見ても、にくったらしいほど颯爽としていてカッコイイ笑顔の相澤を見上げた途端、とうとうプッツンと切れた!
「あぁぁ〜!もう!!!!!
いったい、俺をどれだけ歩かしたら気が済むのさ<」
都会生まれの繊細でナイーブな俺は、熊みたいに頑丈なお前とは違うんだぞ!
「ホントに、後少しだから。な、怒るなよ」
相澤の大きな手が、拗ねくれて膨れた俺の頬に掛かり、キリッとした切れ長のくせに、何故かやったら優しい眼差しが俺を捕らえる。
「き、気安く俺にさわんなよな!汗くさい!!」
俺は引き寄せようとした相澤の腕を、邪険にピシャリと払いのけた。
目の前に立っている、ギリシャ神話に出てくるアポロンのような逞しい体つきの相澤は、俺より5歳年上で兄貴の長年の友人だ。
だから、俺の家にも俺が小学校の頃からよく遊びに来ていた。
あの頃から落ち着いていて大人っぽかった相澤は、よくよく考えてみると今の俺より幼かったんだな。
今の相澤にはどう足掻いても敵いっこないけど、今の俺とあの頃の相澤を比べてみても勝敗は自ずと解る。
滅多に誰かに負けているなんて思うことのない、少々鼻っ柱の強い(人はそれをわがままと呼ぶが)俺は、何となく面白くない。
軟弱もんの俺と違い、スポーツなら何でもござれの兄貴同様、相澤も小さな頃から続けている剣道は師範並だし、スキーであれ水泳であれ何でもこなす、スポーツマンなんだ。
ただし、それは兄貴たちから聞かされる話で実際この目で見たことはない、だって俺は何度誘われても一度も一緒に行ったことなんか無いんだから。
自分でも大きな欠点だと自覚してはいるが・・・俺はやったらめったらプライドが高い・・・・
末っ子で両親どころか年の離れたねーちゃんやにーちゃんにお人形さん状態で可愛がられて育ったせいで、端から負ける喧嘩には決して手を出さない主義なんだ。
万が一スキーになんかに一緒に行って、相澤達が格好良くシュプールを描いてるのを横目で見ながら、俺だけが初心者コースのなだらかな斜面をへっぴり腰のボーゲンで滑り、ひっくり返って尻餅をついてるなんて、考えただけでも虫ずが走る。
相澤に笑われるなんて、俺はまっぴらごめんだね。
それでなくても、俺とこいつには人には言えない【秘密】が有るんだから・・・
半年ほど前、兄貴の部屋に遊びに来ていた相澤達がにぎやかに酒盛りを始めて、酔っぱらった兄貴の友達の一人がニマニマしながら俺を部屋まで呼び出しに来た。
その時まで、俺は全く蚊帳の外に置かれていて知らなかったが、兄貴達の間では、相澤が随分と前から俺に気があるってのは周知の事だったらしい。
俺はかなり酒が入って調子に乗った奴らに無理矢理相澤の横に座らされ、普段ならそんなおふざけにはあんまり参加しない相澤までもが、珍しく照れくさそうに下を向いたまま缶ビールを俺に手渡した。
まわりから相澤のことを揶揄され、俺は正直言ってかなり戸惑った。
俺がこんな顔に生まれたせいで、男から言い寄られることも決して珍しくは無かったけど、まさか?なんで???
少し無口なところが玉に瑕だけど、そんな今時でないところがかえってこいつらしいし。
格好良くてスポーツも勉強もできてその上人望も厚い、そんな相澤が俺のことが好き?酒の席の悪い冗談だろと思いこもうとしてもなんだかやけに胸が苦しかったんだ。
何より、悪友どもに冷やかされているのに、何を言われても反論することなく、黙ったまま俺の横で酒を飲み続けている相澤が俺には信じられなかった。
相澤から受け取った麦酒(ビール)をチビリチビリ嘗めていると(なんでこんな苦げーもん、わざわざ金出して飲むんだ?)相澤が端正な顔を俺に近づけてそっと訊いてきた。
『コーラ買ってきてやろうか?よっちゃんあんまり飲めないんだろ?』
俺の頬に触れそうな程近づいた相澤の唇からは甘いブランデーの香りが漂う。
相澤の問いに、珍しく素直に頷こうとした俺を見とがめた兄貴の奴は、俺が下戸なのを承知で、
『相澤、いいって。コーラなんてお子ちゃまの飲み物、義隆は飲まないよ。義隆も、もう高校生なんだから、そのぐらいの缶ビールの一本や二本飲めるよなぁ』
からかう様な口調が、俺の虚栄心を見事に煽り立てた。
『も、もちろん。ビ、麦酒ぐらい飲めるさ!』
俺はみんなの視線の中、九割方残っていた麦酒を一気に焼け付くような喉に流し込み、気が付くと・・・・・・・自分の部屋のベッドの上だった。
『あ、あったま痛てぇ〜』
俺の額にはヒンヤリと冷たいタオルが載せられ、ベッドの下に胡座をかいて座っている相澤が俺の顔を覗き込んで、ニッコリと笑った。
『飲めないなら、断らなきゃ』
『ふ、普段は飲めるんだ!!きょ、今日はたまたま調子が悪かっただけだよ!』
子どもだと思われたくなくて、ムキになって言い返した俺の唇を、相澤がそっと塞いだ。
突然のことに拒むことすら忘れた唇を割って入ってきた甘いアルコールの香りと熱い舌に、俺の頭は、ますますクラクラと回る。
『よっちゃん・・キス、初めてか?』
唇を離すと、相澤がほんのりと赤い目元を細めて未だぼーっとしたままの俺に訊いた。
『ち、ちがわい!』
何が起こったか、ようやく認識できた俺はガバッと起きあがって叫んだ。その様子がよほどおかしかったのか相澤ときたらクスクスとさも可笑しそうに笑いやがったんだ。
クスッと笑われて、俺は今思えばとんでもないことを口走ってしまった。
『笑うなよ!今はちょっとびっくりしただけだって言ってんだろ!!!
お、俺、経験ほーふなんだからな!!!
女の子だって、男の子だって山ほどしってんだから!』
俺はプライドが高いだけでなく、ほら吹きの気(け)があるのかもしんない。
『へぇ?そう。じゃあお手並み拝見と行こうかな・・・・・・』
最初のうちは酔いも手伝ってか、相澤もかなりおふざけ気味だった。
俺に経験のないことなんか、さっきのキスできっとお見通しだったからだ。
相澤もきっと俺が、止めてくれ、さっきのは嘘だって言うのを待ってたんだと思う。
優しい愛撫とキスをくり返しながら、何度も俺にここまでだと言わすチャンスを与えていたんだから。
相澤が大人の余裕を見せれば見せるほど、俺は意固地になっていき、
『よっちゃん・・・俺もう、これ以上行ったら止めれないよ。ホントにいいんだな』
熱い欲望を切れ長の綺麗な瞳に浮かべ、かなりマジになった相澤が、最後の決断を俺に迫ったとき、俺は浅はかにも、心の奥で『勝った』と思ってしまったんだから。
その後のことはあまりよく憶えていない。
それまでの優しい愛撫とは打って変わって、相澤の激しい情熱に翻弄された・・・
俺は相澤の変貌に恐くなって、何度も『さっきのは嘘だから。ご免なさい。許して』と涙まで浮かべて懇願しだしたのに、相澤は容赦なく力強い腕で俺を組み敷いて・・・犯した。
何度も俺に引き返すチャンスを与えたんだから、あれを『犯す』とは言わないのかも知れないけど・・・俺にとってあれは紛れもない強姦だったんだ。
相澤はそれからも何度か、俺に触れようとしてきたけど、俺はそれ以来指一本触れさせていない。
俺はあの日の相澤が凄く恐かったんだ。
我がサイト一番のわがまま、強気受けのよっちゃん、結構おきになんです私〈笑〉