若返りの水前編

昔々、とある山に大変仲のいい爺様と婆様が住んでおりました。  

ある日、爺様は山の奥に芝刈りに行き、婆様は夕餉の支度をしながら、家で爺様の帰りを待って居りました。

「婆様。今帰ったぞ」  

表から、婆様を呼ぶ声が聞こえましたが、どうも普段の爺様のしゃがれ声ではありません。  

皺だらけの手をそうっと戸に掛け、ほんの少し戸を開いて婆様が表を覗いてみると、そこには遠い昔、婆様がうら若き乙女の胸を熱く焦がし、恋いこがれた若き日の颯爽とした爺様が立っているではありませんか。

「じっ、爺様!どうしたんです?」  

爺様は腰をぬかさんばかりに驚いた、婆様のあまりの驚きように、側にあった水瓶を怪訝そうに覗いてみました。

「こりゃぁ〜たまげた!」  

爺様は水鏡に映った、若き日の自分の美丈夫な姿に、

「いつもの山の奥に、新しい泉がこんこんと湧いておってな、それを飲んでから、なんだかやけに身体が軽いなとは思っておったんじゃが、あれが世に聞く『若返りの水』だったんじゃなぁ」  

爺様は皺一つない美しい顔を綻ばせて、嬉しそうに婆様に泉のある場所を話してやりました。  

次の日、夜明けと共に、婆様は爺様の教えてくれた泉へと一人でいくことにしました。 

二人で行けば良かったのですが、爺様はこのごろずっとおざなりになっていた、畑仕事がしたかったのです。  

若いからだは面白いほどよく動き、爺様は時間を忘れて畑仕事に精を出しました。  

所が、日が傾きだしても婆様は帰ってきません。心配になった爺様は、慌てて昨日の泉迄走っていくと、藪の中から赤ん坊の泣き声がするではありませんか。

「おお・・婆様や・・・」  

爺様はまるまるとした可愛らしい赤子を、愛おしそうに腕に抱き、家へと帰っていきました。  

婆様は長年連れ添っても尚、爺様がとっても好きだったのです。  

だから、お腹一杯お水を飲んで、少しでも若く、綺麗な頃に戻りたかったのでしょうね。

****************

時は移り変わって、ここは現代の日本。  

日本の医学界の先頭に立つ医学界のパイオニア、南里(みなみさと)大学。  

最新設備の整った研究室や付属病院を持つ世界にも広く名の知れた有名大学である。  

研究室の並ぶブロックへ、廊下の向こうから一枚の紙を挟んだクリップボードを胸に抱えて、早足でこちらに歩いてくるスーツ姿のほっそりとした青年は、この大学の経理をしている南里雅之(みなみさとまさゆき)。  

名前からも解るように、彼はこの大学の創設者の曾孫に当たり現理事の息子でもある。  

27才という中途半端な年齢だが、歩くたびにふんわりと揺れる艶やかな黒髪に囲まれた小さな顔は、かってはさぞかし周りを騒がした紅顔の美少年だったろうな、という面影を今でも十二分に残している。

実際の年齢よりは随分と若く見える、優しい顔立ちの超美青年である。  

有名大学並びに大病院の経理部課長という、この年にしてはかなりもったいぶった肩書きが信じられないほど、華奢な身体に三ボタンが並ぶ紺色のスーツをすっきりと着こなした姿は、いまなお可愛らしく、就職したての新人のように見えるのだから、雅之に貫禄などというものは、きっと一生縁がないのかも知れない。  

その雅之にはない、威厳や貫禄を、一手に引き受けている一筋縄ではいかない、これまた驚くほどの美貌を持った恋人が雅之にはいるのだが・・・

「ねえ、澪(れい)!今日は一緒に帰れるんだよね?」  

雅之はいまだ柔らかい丸みの残る頬を微かに上気させ、息せきって嬉しそうに研究室に続くスチールのドアを、バタンと内側に向かっておおきく開けた。  

訳の分からない機械と試験管やらビーカーが至る所に並べられた、ごちゃごちゃとした研究室の端で、ピッタリと重なっていた人影が、雅之の突然の出現でパッとふたつに別れた。

彼らが驚くのも当然の事で、澪の研究室をノックもせずに空ける輩は、雅之を除くとほとんど存在しない。

「し、失礼します<」  

ドアの横で茫然と立ちつくして二人を眺めていた雅之の横を、若いゼミの学生が真っ白い白衣にリンゴが乗ってるのかと思うほど真っ赤に顔を赤らめて、ダダダっと勢いよく走り抜けていった。

「やあ、南(みなみ)。えらく早かったな」  

男は僅かに乱れた白衣の襟を引っ張りながら、ちょっとばつが悪そうに雅之に向かって微笑み掛けた。

「澪・・・今度浮気したら、絶対に許さないって三ヶ月前にいって置いたはずだよね?」  

悲しみでキュッと詰まったのどの奥から絞り出すように言った言葉と共に、雅之の大きな瞳には見る見る大粒の涙が盛り上がってきた。  

研究室に残っている背が高くスラリとした男が雅之の恋人。

二人の中は古く、高校時代からのつきあいで、かれこれ10年も続いている。  

厚顔不遜の結城澪は同じく27才と言う若さにも関わらず、今年中にも理事会が助教授に任命し、35才までには教授になるであろうと噂されていた。

元来の頭の良さ、運の良さに加え、なんと言っても彼は次期理事の恋人なんだからと陰口をたたくものもいるにはいたが、彼の持つ実力をけなすものはいない。 

自信家の澪が何をするにも人目をはばからないせいで、二人の親密な関係は大学中に広く知れ渡っていた。

「南・・怒るなって。ちょっとふざけていただけだ」  

軽やかな身のこなしで雅之の側に寄った澪は、唇を噛みしめて俯いてしまった雅之を広い胸に優しく抱きしめた。

「嘘つき」

「嘘じゃないって」  

悲しみに満ちた雅之の声とは対照的に、澪の声は甘く、嬉しそうにすら聞こえる。  

大うそつきの澪に何度裏切られても、結局は澪の巧みな誤魔化しに騙され許してしまう自分が情けなくて、肩を小刻みに振るわす雅之の涙は止まらない。

・・・・今の子、この所ずっと澪と研究室に泊まり込んでた子だよね。そういえば澪が前から随分と研究熱心な子だっていって目を掛けてたっけ、澪の研究室の中じゃ可愛さもピカ一だものね・・・・・・ 

澪がちょっかいを出すのは、必ず20未満の美少年なのだ。

かっては雅之が類い希なる美少年だったんだからなんの問題もおきはしなかったのだが、ここ数年、澪のつまみ食いは頻度を増した。  

今の子との関係が、少なくとも今日始まったんじゃないと思うと、雅之の胸の奥にフルフルと怒りが込み上げてくる。

なにやら新しい実験のプロジェクトが始まり、二週間もの間研究室に泊まりっぱなしだった澪のせいで、どれほど雅之が寂しかったか・・・

毎日チラッと顔は見れるものの、夜を共に過ごすどころか、ここの所、ろくに落ち着いて話も出来なかったのだから。

寂しい思いをしていたのは自分だけだったのかと思うと、よけいに悔しさが増した。

「離してよ・・・」

「嫌だ。離さない。今俺が離したら、南怒ってどっか行っちゃう気だろ?だから、だ〜め!」  

悪びれもせず、面白がりでもしているように、恐いほど整った顔に不遜な笑みを浮かべて、澪は雅之を抱く腕に力を込めた。

「機嫌直せよ。な?帰ったら、たっぷり可愛がってやるから。

ここんところ俺が研究室に泊まり込みで、南、寂しかったろ?」  

後ろ手に閉めたドアに雅之の身体を押しつけて、澪は雅之の顎に長い指をかけた。

「いや・・・」  

澪の露骨な言葉に雅之の血は頭にカッとのぼり、近づいてくる澪の唇を拒もうとしても金縛りにあったみたいに身体が動かない。  

何千何万いや何億回雅之は澪に口づけされただろう。

その度に雅之は情けないほど何も考えられなくなる。

身体がとろとろに溶け、世界の全てが澪そのものになる。  

ようやく離れた澪の濡れた唇を、雅之は霞の掛かった視界のなかでぼんやりと眺めた。

・・・・・今、ほんの数分前に澪の唇はあの子のものだったんだね。

今僕にしたように、あの子の可愛らしい唇を澪は・・・・

ああ、嫌(や)だよ澪・・・

なぜ?澪は僕以外の人と、キスしたりそれ以上のことが出来るんだろう?

僕は澪しかいらないのに・・・

僕がもう少年じゃない。その事がそんなに大きな事なの?

僕はきっと澪がお爺さんになっても、ずぅ〜と愛しつづけてていられるのに・・・澪は違うんだね・・・・・

「帰ろう・・南・・・ここで押し倒しちまいそうだ」  

澪の瞳がグレイの色調を帯びて、掠れた声で囁いた。  

もともと日本人にしては色素の薄い琥珀色の瞳が、欲望を示すとき僅かにグレイがかることを雅之は知っていた。

『抱きたい』と澪が囁いても本気なのか、冗談なのか、瞳の色を見れば雅之にはすぐに解った。

そんな状況の時に鏡を見ることもないし、その事を教えたこともないので、当の本人は自分の瞳の色の変化に気づいてはいないのだが・・・

「澪ひとりで帰れば。僕は世田谷の家に帰るから」  

雅之は澪の胸に手を突いて、俯いたまま身体を離した。

グレイに煙る澪の妖しい瞳に見詰められると、どんなに怒っていても自分自身の欲望に呆れるほど簡単に火が付くことを雅之はよく知っていた。

「南。つまらない焼き餅もたいがいにしろ。あの子が好きだと言ってきたから、ちょっとキスしてやっただけじゃないか」

「そう?好きだと言われれば、澪は誰とでもキスするわけ?

澪のキスって安っぽいんだね」  

足下に視線を落としたまま、怒るのももう馬鹿馬鹿しくて、雅之は呆れたように溜息を吐いた。

「解ったよ。ちょっと可愛い子だなとおもったのは認めるよ。だけど、子どもじゃあるまいしキスぐらいどおってことないだろう?俺は浮気なんかしちゃいない。

それでも気に入らないっていうんなら、かってに世田谷の家に帰るといい。

俺はここんとこ徹夜続きで眠いんだ」  

いつもはキス一つで機嫌の直る雅之の頑なな態度に寝不足と欲求不満も手伝ってか、だんだんとイライラとしてきた澪は、おもむろに踵を返すと、白衣を脱ぎに研究室の奥にあるロッカールームへと大股に歩いていってしまった。

・・・・まるで僕が悪いことをしたみたいに怒るんだね・・・・

もしかして僕が理事の息子でさえなかったら、とうの昔に僕なんかとは別れてたの?   

背中に当たっていたヒンヤリとしたスチールドアを開けて、誰もいない廊下に出た雅之は、しょんぼりと頭(こうべ)を項垂れて経理室にもどりかけたのだが、廊下を曲がった途端、胸に持ったクリップボードを大学病院の大橋先生に見せに行かなきゃならないのを思い出した。  

大学病院は大学の研究室のある棟とIDカードを持つ者しか通れないドアで通じている。 

特に澪のいるこのブロックは、最新の医薬品などが極秘に研究されているので、ごく限られた人しか入れないことになっていた。    

「はい、ご苦労様」  

ボードの紙に若い医者はさらさらっとサインを済ました。   

帰り支度を済ませ、長袖Tシャツの上から半袖のシャツを着て、カラージーンズを履いた大橋は、医者と言うより何処にでもいる遊び人のフリーターみたいに見える。  

椅子から立ち上がった大橋は、ボードを雅之に返す時にちょっと手を止めて、

「性懲りもなく振られるのを覚悟で、また誘うけど、南里さん、俺と今晩ご飯でも食べに行きませんか?」   

本気なのか冗談なのか、一つ年下のこの医者は、雅之に会うたびに懲りもせずデートに誘った。  

友だちや同僚としてでなく、デートとして誘っているのがハッキリと解る態度で誘ってきているのだが、雅之も澪と付き合ってからは男性に誘われてもそれほどは驚かなくなっていた。  

大橋自身、自分はバイだと最初から雅之に公言していたし、

『男でも、女でも好きになったら同じでしょう?』と言うのが明るい大橋の持論なのだ。

「ご飯より、お酒・・・飲みたいな」

「へ?」  

誘うたびにやんわりと断られ続けていた大橋は、雅之の放った予想外の返事に手にしていたボールペンをポロリと落とし、大きく目を見開いた。

「あ・・ごめん。冗談だったんだね?気にしないで」  

パッと頬を赤く染めた雅之は、とてもあと3年で三十路に入るとは思えないほど初々しい。

「ま、まって下さいよ!何処にします?居酒屋ですか?ショットバー?それともスナックがいいですか?」  

あわてて落としたボールペンを拾い上げて、帰ろうとした雅之を引き留めた大橋は、機関銃のように矢継ぎ早に訊いた。

「え?えっと・・・何処にしようか?」  

モスグリーンのクリップボードを両手で胸に抱えたまま、困った様子で首を傾げる姿も何とも愛くるしくて、向かい合って立つ大橋よりも、雅之の方が年上とはとても思えない。  

*** 

「研究室、なんだか、えらいものを扱ってるんですってね」  

ちょっとしたイタリア風の料理も出す洋風の居酒屋で、大橋と雅之は幾皿も料理の並んだテーブルを挟んでワインを傾けていた。

お洒落な店内はアベックと女の子だけのグループでほとんど満席状態だ。

「すごいものって何?」  

オリーブオイルの入ったドレッシングを垂らさないように、たこのカルッパチョを慎重にホークで口に運びながら、雅之は何気なく聞き返した。

「あれ?結城さんから何も聞いてない?」

「澪から?澪は研究のことは何も話さないよ。 

まあ、難しい専門用語が出てきたりしたら、僕なんかにはなんにも分かんないだろうけど」  

雅之はふんわりと髪を揺らしながら顔を横に振った。

澪の胸の中で眠る度に、いつも澪が鼻先を雅之の髪に埋めて、良い香りだというフローラルなシャンプーの香りがふわっと辺りを漂った。

「そりゃ俺だって、南里さんとふたりっきりでいられるんなら、仕事の話なんかしないでもっと有意義な事をしたいけどね。

ただ噂によると、今度のはXファイル並に凄いらしいから」

「だから、凄いって何が?」  

大橋の意味深な言葉に曖昧な笑顔を返して、雅之はもう一度訊いた。  

大橋は芳醇なワインの香りが解るほど唇を雅之のそばに寄せて、

「詳しいことは極秘扱いで解らないけど、なんでも若返りのクスリらしいよ。噂だけどね」  

憎めない愛嬌のある顔に、とってつけたような真剣な表情を浮かべて大橋は小声で囁いた。

「うっそだ〜」  

白ワインをグラスに2杯飲んだ雅之は、目の周りを色っぽく赤らめて、可笑しそうにコロコロと笑った。  

大橋も雅之の無邪気な笑顔につられて一緒に笑う。

「そうやって笑うとますますかわいいね。まあ、俺なんかがわざわざ言わなくても、麗しの背の君が嫌って言うほど言ってくれるんだろうけど」

「麗しの背の君って?」  

雅之は素知らぬ顔でとぼけてみせる。  

大橋はグラスを唇に付けたまま上目遣いに  雅之を見上げて、

「もちろん。かの『結城澪』でしょう」

「ふ〜ん。病院の職員まで僕たちのことそんな風に思ってるんだ?」  

澪は雅之との間柄を聞かれれば臆面なく、そうだと答えるが、シャイな雅之は否定こそしないものの、いつも曖昧に言葉を濁していた。

「そりゃあ思いますよ。

結城さんだけでも凄く目立つし、南里さんも同様だからね。

それに二人が並んで歩くときに必ず結城さんは南里さんの腰か肩に腕を廻すでしょう?

あの彫像みたいな顔で、クッと肩を聳やかして『俺の南だゾ』ってオーラまき散らしながら歩いてるんだから、こりゃあ噂だけじゃなくて、並の友だち関係じゃないなって解りますよ」

「オーラ?大袈裟だね。澪は僕のことなんかそんな風に思ってやしないよ」  

困った雅之は、大橋から視線を外し、緑に染まるほど、バジルがたっぷり入ったパスタをくるくるとフォークに巻き付けて、食べ始めた。

「あ、南里さん、口元にバジル付いてる」

「え?どこ?」  

顔をお皿から上げて聞き返した途端、大橋に唇の端をサッとかすめ取られた。

「取れましたよ」  

大橋は悪戯っぽく笑った。

「もう。悪さしちゃダメだよ・・・」  

澪以外の人に一度も触れさしたことのない唇に、軽くとは言えキスをされた雅之は激しい動揺を隠せずにキュッと唇を噛みしめた。  

大橋は尚も明るい口調で、

「ほら、結城さんに悪いと思ってるんでしょ?」

「澪には関係ないよ」

「同棲してるって噂ですけど?」

「時々僕が澪の部屋に遊びに行くだけ。別に一緒に住んでるわけじゃないもの」

澪は何日でも僕を泊めてくれるけど、一度も一緒に暮らそうとは言ってくれない。10年も付き合ってるのに、僕は澪の部屋の鍵も持ってはいないんだ

「結城さんとはなんでもないって言い張るつもり?それとも、今日、俺と来てくれたのは彼と旨くいってないせい?

もしかしてこれから先の展開に期待してもいいのかな?」

「期待って・・・僕はそんなつもりじゃ」

「今日は無理でも、いつか俺と寝てくれる気がある?」

「・・・!」   

ストレートな大橋の問いに、雅之はグラスに残っていた白ワインを一気に飲み干した。

「えっとね、正直に言うよ。こうやって食事に来ることが期待させることになるなら、僕をもう誘わないで。

僕だって寂しいときは誰かといたいもの。

それに澪とのことを認めるとか、認めないとか言うけど、別に隠したい訳じゃない。そんなプライベートな事をいちいち周りの人に話すのは僕は嫌いなんだ。   

大橋先生の言うように、ここんところずっと澪と僕とはぎくしゃくしてる。僕たちもうダメかも知れない・・・

だからといってすぐに誰かと付き合うつもりも僕にはないから・・・今の質問にはNOだね」  

寂しそうな笑顔を、雅之はほんの少しガッカリしている大橋に向けた。

澪のかわりなんか何処にもいない。

でも僕は澪を他の誰かと共有してまで澪の側に居続けたいなんて思わない。

澪が僕だけの澪じゃなきゃ嫌なんだ。  

僕が昔の・・・澪に初めてあった頃の10代の少年に戻れたら、澪はまた僕だけを見詰めてくれるのかな・・・・

「本当にあればいいのにね・・・若返りのクスリ」   

軽快なラテンミュージックが流れる賑やかな店の中で、雅之は誰にも聞き取れないほど小さな声で呟いた。