宣 戦 布 告 !
**恋の病**
by,yue tuyaka
ただのクラスメートに告白された。
大阪弁で、ちょこまか動き、傍観してるだけで、うるさい奴だった。
告白をされるなんて思っていなかった俺は、時が止まったかのように動けなかった。
そのときのあいつの顔は、いつも見てる顔とは違ったから。
真っ赤になって、『好きや。』と言ってきたあいつが何だか可愛く思えた。
不覚だ…と思った。
そして俺はあいつに選択を迫られた。
あいつ―――今井 岬(いまい みさき)という男に。
◇
「相模(さがみ)、頼むから数学の宿題見せてくれへん?」
「嫌だ。」
数学の授業が始まる直前、今井は慌てて俺のところへ来てそう言った。
速攻で返された答えに、今井はすねるようにホッペを膨らましている。
そんな今井は、俺のことを好きだと言う。
俺も…そんな今井のことを、嫌いではないと思う。
告白も断りはしなかった。
けれど、俺は今井にキスしたいと思わない。
「相模のアホー!数学苦手な俺を少しくらい助けたってもええやんかー。」
「苦手?前の中間テスト何点だったんだ?」
「…………25点。」
「救いようないな。」
あまりの点数の悪さに、見せるは愚か、教えようという気まで起きない。
教室の端の席に座っている俺は、今井を無視して読みかけだった小説を再び読み始めた。
少しの間、俺に向って文句を言っていた今井だったが、何かひらめいたのかニヤリと企んだ笑みを浮かべて、俺に1つの『賭け』を持ち出してきた。
その『賭け』とは………。
「なぁ、相模!そんなに俺に数学が教えんのが嫌やねんやったら、賭けしよーや!もし、俺が次の期末テストで80点以上取ったら相模が俺にホッペにチュー!90点以上だったら唇にチュー!で、100点だったら愛の囁き+唇にチュー!でどうだ??」
思わず顔を上げて、今井の表情を伺った。
「お前、本気でそれ言ってるのか?」
俺は少し眉を寄せて、睨むように今井を見た。
見上げた今井の表情は軽い口調だったにも関わらず、意外にも真剣な顔つきだった。
俺はそんな今井を見た瞬間、今までと違ったものを自分自身の中で感じ取った。
それが何なのかまでは、分からなかったが…。
「あったりまえやん。俺、相模とキスしたいねんもん。付き合い始めてから、まだ一度もキスしてくれへんやんか。」
今の時間が放課後で本当に良かったと思った。
何の躊躇もなく、今井は俺と付き合ってると言ったからだ。
男子校でもあるここでは、今井は可愛いと人気がある。
そんな今井と付き合ってるなんて広まったら、大多数の奴らに恨まれる。
「分かった。まあ、今井が80点以上取れたらの話だけどな。」
開いていた小説を両手でバタンと閉じて、帰る用意を始める。
今井は顔を真っ赤にして喜びながら、『よっしゃ〜!やったるでぇ!』と言って、教室から出て行ってしまった。
きっと数学が出来る奴のところへにでも行ったのだろう。
『わざわざ今井が委員会で待っててくれって言うから待ってたのに…。』と俺は一人教室で呟いた。
今井が前のテスト25点からして、80点以上取るなんてありえない。
俺はどっか期待しているような安心しているような…そんな気持ちで教室を後にした。
◆
今井とのそんな約束の後、3週間もの時が過ぎて、運命の期末テスト、数学の日がやってきた。
朝早くから教室に来て、みんな必死に教科書やノートを漁っている。
俺は自分の席に座り、先に来ていた今井に目を向けた。
机にへばりついて、慣れない勉強をしている今井を見ているのはおもしろかった。
くるくると表情が変わる。
答えが分からないのか膨れっ面をしたり、答えが分かったのか嬉しそうに笑ったり、今井の表情を見るのに飽きる事はなかった。
「テストを始めるから、みんな席につけよぉ。」
先生入ってきて、教室が慌しくなる。
さっきまで『分からなねぇ〜』と騒いでいた声は消え、先生の説明の声だけが教室内に響き渡っていた。
テスト容姿が配られ、先生の『始め!』という声と共に、みんな一斉に書き始めた。
―――――50分後。
「はい。そこまで〜。さっさと後ろから集めて前に回してこい。」
俺たちの解答用紙を回収した先生は、すぐさま教室を出て職員室へと向った。
不意に座っていた俺の前に影が落ちる。
顔を上げると、そこには嬉しそうな今井が立っていた。
「俺、今回絶対に80点以上いったからな!『賭け』は俺の勝ちやで!」
「まだテスト返ってきてないだろ。勝ったという言葉はテストが返ってきてから言え。」
「そんなすました顔してられるのも今の内やからな!1週間後が楽しみやわ。」
「あ〜、はいはい。」
そのとき教室の中は俺と今井との『賭け』話を盗み聞きして盛り上がっていたとは、全く知らないまま1週間が過ぎていった。
◇
「テスト返すから、呼ばれた奴から取りに来いよ。」
お昼休みも過ぎて、テストが返ってきたのは6時間目だった。
陽射しの良い教室で、うとうと…としていた教室のみんなは、『テスト』という言葉に急に顔が強張った。
この先生はテストを返す時、嫌がらせなのか点数までわざわざ大声で言ってくる。
みんながみんな先生の声に集中していた。
そして、俺も例外ではなかった。
「坂下、62点。もう少し勉強しろ。」
「中尾、32点。悪すぎ。」
「相模、97点。学年トップ。」
周りから『すげぇ〜。』『うおおぉぉ。』と感嘆の声が上がる。
俺は自分の点数よりも、今井の点数の方が気になっていて、周りの声も入ってこなかった。
「今井、………12点。最低点だ。」
「えぇ!?何でなん?あんなにがんばったのに!」
「今井、回答欄、最初の問題以外…全部一つずつズレてるんだよ…。」
先生が悲しそうに呟く声が、放心している今井に届いてるかは謎だった。
その後、今井は自分の机に倒れきって、6時間目が終わるまで復活はしなかった。
◆
「今井、元気だせよぉ――。」
「いい加減、立ち直れよ。」
「そうだそうだ。テストはこれだけじゃないんだからな!」
6時間目が終わって放課後になり、みんなが帰るころになっても今井は机に突っ伏していた。
教室を後にするクラスメイトに声をかけられても、今井は全く起き上がろうとしない。
俺と今井だけが教室に残った。
「おい。いい加減にしろ。」
俺の声に反応して顔を上げた今井は、目を潤ませて捨てられた犬のように俺をながら、ボソボソとしゃべりだした。
「う゛…だって……がんばったんや……、俺…しょーもないミスして………相模とチューしたかったのに……やけど……12点って……。」
「そんなに悔しい?」
「…当たり前やろ。俺、絶対80点以上取るつもりでおってんから。」
目に浮かんでいる涙を必死で拭いながら、今井は少し強めに言い放った。
思わず俺は今井の頭に手を置いて、なでなでをしていた。
「さっ…相模?」
今までしたこともない俺の態度に、今井の俺を呼ぶ声が裏返ってる。
俺はそんな今井が、告白されたときよりも何よりも一番可愛いと思った。
手で今井のあごを持ち上げて、顔を上に向かせる。
「………………さが…み?」
「がんばった努力は認めてやる。」
「……なに………?」
「ちょっと黙ってろ。」
俺は戸惑いの目をした今井に顔を近づけた。
―――――ちゅっ―――――
>>END<<
ユエちゃんから、また、素敵なお話をいただきました〜>前作はこちら
きゃ〜(^0^)またしても、つづきはぁ?と催促したくなっちゃいましたv
みなさんも一緒におねだりして下さいねv
ユエちゃんいつもありがとうvv