Crystals of snow story

*煌めきの銀河へ*

(6)

 

「ああ。俺が信頼している数少ない友人だ」 そう言えば地球5のブラッドの話を初めて聞いたのは伯爵からだったかもしれないとフィルは思い出した。

精力的に銀河の中で貿易の仕事をするために、辺境のミレーネに定住しているわけではないがロレンスが元々はミレーネの生まれだと言うことをブラッドも思い出していた。

独特の不思議な味わいを持つミレーネ産のウイスキーもロレンスから教わった数多い物の一つだった。

しかし、親友として過ごした学生時代もそのあとも、ミレーネの希有な生態系については何一つ聞かされてはいなかった。

「お、お、お前も両性体だったのか?」

改めて類い希な美貌を持つ親友にブラッドは驚きの声を上げた。

並の美女など霞んでしまう、ゴージャスなロレンスの美貌、だが、それには出会ったときから微塵も女性らしい匂いは感じられなかった。

「安心しろ。そなたに初めてあったときは既に完全な男だった」

メインスクリーンの中でしっかりと両腕を組みながら伯爵は憮然とした態度で応えた。

「残念だな。女になってれば俺がいの一番に口説いてやったのに」
ブラッドはさもおかしそうに眉を上げて見せた。

「ブラッド!気持ちの悪いことを申すな!」

伯爵はブルッと身震いをしたのか、黄金の髪を揺らし気色ばんだのをみて、フィルがブラッドの横から二人の会話に割ってはいる。

「その気持ちの悪いことを、俺に言ったのは何処のどいつ何だよ!」

「ああ、フィル。そなたが嫌と申すなら完全に女性化するまでは婚儀の話はせぬ。とりあえずミレーネに戻ろう」

親友で有ると同時に、いつも常にお互いをライバル視している相手を、あらためてブラッドはスクリーン越しにしげしげと眺めた。 

ロレンスらしくないな・・・・

女性には事欠かないブラッドに負けず劣らずその周りにいつも美女の群がる伯爵が、ここまで低姿勢で一人の幾ら美貌の持ち主とは言え年端のゆかぬ少女(?)に執着するのが滑稽で、フィルの肩に手を回したブラッドは波打つプラチナブロンドに包まれた小さな頭を、自分の方に引き寄せた。

「悪いな。ロレンス。フィルはお前より俺がいいんだそうだ。俺もこんな別嬪さんに連れて逃げてと言われたからには、みすみすお前に返すわけにはいかないぁ」

かなり感情的になっている伯爵とは正反対に、ブラッドは飄々とした口調で言った。

「な、何を申す!ああ、汚らわしい。ブラッド!姫の肩から手を離すのだ!」

黄金の髪が怒りに震え、今にもめらめらと燃え上がりそうだ。

「どうするんだフィル。あのロレンスから逃げ切ろうなんて、この銀河ひろしといえ並大抵な事じゃないぞ」

伯爵に聞こえないように、引き寄せたフィルの形のいい耳元に唇を寄せて訊いた。

ブラッドの名前が広く辺境に響き渡っている以上に、美貌のロレンス伯爵を知らないものはかなりのもぐりなのだ。 

単なる辺境惑星の田舎貴族相手なら万全な隠れ家でも、伯爵が相手ならブラッドの地球5のフラットも、決して安全な隠れ家ではない。

ブラッドは親友であるこの男の実力を十二分に知っている。

「お願いだ。このまま俺を連れていってよ。ブラッド」

フィルの決心が固いことを確かめると、もう一度メインスクリーンの中の伯爵にブラッドは言い放った。

「残念だったな、ロレンス。フィルは俺がいただきだく!」

スクリーンの向こうで驚きに声も出せない伯爵に向かって、不適な笑いを浮かべながらさも楽しそうに、スクリーンのスイッチをブラッドはプツリと切った。

「ブラッド?」

スイッチの切り替えられたスクリーンに、もはや伯爵の麗しい姿は無く、ブラッドは急速にソフィア号のスピードを上げた。

「あらあら。やけに子供っぽいことをするじゃないの。
もしかしたらあのことをまだ根に持ってるのかしら?ブラッドも結構しつこいのね」

どうだかと眉を上げて見せたブラッドにレイラは鼻先を顰めるようにして笑い、その白い身体をブラッドの逞しい身体にぴたりとすりつけた。

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