光の中で微笑んで 第十一章
洋一に掴まれた腕が熱い。
腕だけじゃなく掴まれた場所から熱が波紋のように体中を広がっていく。誰かにさまして欲しい。
洋一への想いを。「あいつか?」
洋一達から離れたところまで来ると、清治さんが低い声でポツリと訊いた。
「うん」
僕もポツリと応える。
「昨日もあいつと何かあったんだな?」
「ううん。何も無いよ。昨日もそういったでしょ」
「なんにもなくて、遙がわざわざ俺んとこに来るわけねぇだろ」
苦笑混じりに清治さんは僕の頭をぽかりと叩いた。
軽く小突かれただけで、ゆらりとからだが横に揺れる。
誰かにギュッと抱きしめて欲しい。
僕が身体の内側から壊れてしまわないように。
今はこうして正気を保ったまま、立っていることすら苦痛なのだ。「清治さんに会いたかったからって言ったら、また昨日みたいに僕との間に距離を置くの?」
背中に遠ざかる洋一の熱い視線を感じながら、清治さんの腕に火照った腕を絡める。
「遙?」
「僕に寄り添われるのが迷惑なら、どうしてこうやってまた僕を迎えにきたりするの?」
僕は何を言ってる・・・
「俺を誘ってるのか?」
清治さんの顔がまた渋みを帯びて険しくなる。
「わかんない」
また悲しくて、クスリと笑った。
「わかんないよ」
僕は大きく首を振る。
ほらそうやって、清治さんも結局僕を拒絶するじゃないか。
あなたの所以外に僕の行くところなど、どこにもありはしないのに。もう他に道はないんだね。まるで八方塞がりの路地に迷い込んだみたいだ。
僕はどこにもたどり着くことは出来ない。
清治さんの所にも、まして洋一の所にも。誰も僕を受け入れてはくれない。
誰も僕を助けてはくれない。
誰も・・・愛してはくれないのだ。
あの日から何も変わってはいない。
僕に残された場所はあと一つだけ、あの子の待つ暗く寒い部屋。
待っていて、僕がすぐに行ってあげるから、君だけに辛い思いはさせはしない。
約束しただろう?
僕が抱きしめて、愛してあげるって・・・・
僕には君しかいなかったんだ。
結局、最初から・・・・
「さよならだね。清治さん」
唐突に僕は絡めていた腕をスルリと放した。
「遙?」
「悪いけど【シンドローム】のマスターによろしく言っておいて、有り難うって」
「やめるってぇのか?やめてどうするつもりだ」
蔑むような光を帯びた瞳が、見当違いにもまた元の商売をするつもりなのかと僕を責める。
そんな風にしか思ってはくれないんだね?
あなたにとっても、結局僕はただの男娼にすぎなかったってわけだ。自嘲気味に短く笑った。
「ハッ!どうでもいいじゃない。僕なんか。
結局今更どうやったって何にも変わりはしないんだ。じゃあね、清治さん。世話になりっぱなしでごめんね」
好きだったんだよ。
本当に大好きだった。
洋一に抱く想いとは確かに違うけど、僕は間違いなく清治さんの事が好きだった。清治さんから後ずさりながら、笑おうとしても、旨く笑えない。
「あっ?」
清治さんの強い腕が、離れかけた僕を素早く掴んで引き戻した。
「そんなにあの商売に戻りたいなら、俺が買ってやるよ」
怒っている。
悲しみさえ滲ませて清治さんが怒っている。ああ、怒った顔がとても綺麗だよ清治さん。
僕にあなたほどの強さが有れば、生きていくことも出来たのにね・・・
いいよね。
たった一晩、逝くのを見あわせたところでそんなに変わりは無いもの。一晩、一晩だけ僕に時間をおくれ。
必ず君の所に、必ず行くから。「特別に安くしといてあげる」
僕の最後の夜を抱いていてね、清治さん。
僕は媚びを含んだとびきりの笑みを清治さんに向けた。
次回、最終回をお待ちください。。。