Crystals of snow story
Broken Heart〜小さな痛み
「純白の花衣」Suzuya's Story
( 8 )
研くんが怒ってる・・・・・・ベッドの端に仁王立ちになって、僕を睨み付けながら。
最初は泣いてしまった僕をいつものように慰めてくれていたけど、僕が帰って欲しいと言うと、頬を赤く激高させて、
「お前に振り回されるのは、もう、うんざりだよ!!」
って・・・・捨てぜりふを吐くように・・・・・前にも一度そんなことがあったよね。
僕をおいて、でていっちゃったことが・・・・・
あのときにわかっていればよかったんだ。
そしたら、僕も研くんもこんなにも傷ついたりしなかったのに・・・・・・・
まだ恋に気がついたばかりのあの頃なら、まだ、綺麗なままのあの頃なら僕だってこんなにも苦しくは無かったはずなのに。
こんなに・・・・辛くなんか・・・・・
胸の痛みを紛らわせたくて、人差し指をギュッと噛みしめたあと、僕はゆっくりと言葉を口にした。
別れを少しでも先に延ばしたかったこと。
その別れに耐えられるように、少しでも強くなりたかったこと。
恋人として居られなくなったあとも、せめて、研くんに友人として認めてもらえる存在でありたかったこと。
話終わる頃には堪えていたはずの大粒の涙が、またポロポロと頬の上にこぼれ落ちた。
なんて情けないないんだろ・・・僕は・・・・・・・
「ははは、ただの幼なじみに戻ろうよ、ってか?」
そんな僕を嘲笑するように、研くんが唇を眇めてわらった。
こんな、研くんを見るのは初めてだ・・・・・
その後も、僕を攻める言葉を研くんはくすくすと笑いながら僕に投げつける。
そして、最悪の言葉。
「悪いけど、俺・・・・今更『幼なじみ』の鈴なんかいらない。俺が欲しかったのは『恋人』としての鈴なんだ。だから交渉は決裂ってことだな・・・・」
友人としての僕も認めてはくれないってこと?
そのあと、縋るように哀願する僕を、研くんは汚らわしいもでも吐き捨てるような目で一瞥した後、僕を置いて出て行ってしまった。
もう、後戻りは出来ない・・・・
研くんの望む無垢で可愛い鈴ちゃんのふりなど出来はしない・・・・・・
☆★☆
普段なら誰も来ない始業前の鉄製の階段。
優しく労るような優しい声が掛かる。
「お前のそんな顔は見たくねぇな・・・・・・」
史郎君が僕の肩を元気づけるようにポンッとたたいた。
なれなれしく誰かに触れたり触れられたりすることを極端に嫌う史郎君のこれは最大限の慰めかたなのだろう。
「ありがとう」
ある意味、研くん以上に僕の本質を知っていてくれる幼なじみの史郎君に、僕は切ない笑顔を向けた。
今朝、研くんに彼の理想としていた僕を渡した僕は、身を隠すように、非常階段横の踊り場に座っていた。
綺麗な綺麗な史郎君の顔が薄靄に紛れてしまう。
「大丈夫か?鈴矢?」
「うん・・・ごめんね、史朗くん・・・・」
無視やり向けた笑顔は何もかも見透かされるような琥珀色の瞳に砕けるように消えた。
「ご・・・・ごめん・・・・・ね」
孝太郎君に申し訳ないと思いながらも僕は史郎君の肩に顔を埋めた。