Crystals of snow story
*10年分のチョコレート*
2001バレンタイン企画
「おはよう。研くん。今日も冷えるね」 駅前のいつもの待ち合わせ場所、駅の改札がみえる横断歩道横のガードレールの前に研くんは立っていた。 いつもと同じスタイルで、いつものように約束の時間より5分は早くそこに立っているのだ。 研クンを待たせないために、それより早く僕が行くようにすると、翌日にはそれより早く研くんが来るので、僕は約束の時間ちょうどにつくようにしていた。 そうでもしないと、いたちごっこになってしまう。 いっつも待ってもらうのなんかいやなんだよと唇を尖らせてみても、困ったようにお前をこんなとこで待たせるわけにはいかないと苦笑する。 それは、昔から変わらない研くんの表情。 少し困ったように、少し照れたように、愛情に満ちた柔らかな眼差し。 変わらずに、向けてくれる僕へのこころ・・・・・・ 「ああ、さむいな。それより、マフラーしてないじゃないか?また風邪ひくぞ」 「出がけに、コーヒーこぼしちゃって」 ぺろっと舌を出した僕の首に、 「ほら」 研クンは自分のマフラーを外してくるりと巻き付けてくれた。 「ありがとう、でも、研くんがさむいでしょ?」 「お前に風邪ひかしたなんてバレたら、俺、サッカー部の奴らからリンチにあっちまうよ」 僕の笑顔に、照れたような返事をして、研くんはくるりと改札の方へ踵を返し、ちょうど青信号になっている歩道を渡り始めた。 がむしゃらに僕を護ってくれていた幼い研くんが、いつの間にか大きな翼ですっぽりと僕を包みこんでくれる。 足早に追いかける僕の視界いっぱいに拡がる広い背中が、日一日と逞しくなっていくような気がして、ふいに僕はちょっぴり寂しくなってしまう。 変わらない想いは、いつまで続くのだろう・・・・当たり前のようにただ与えられるだけの愛情に甘んじていられるのはいつまでなのだろう。 肩幅と同じようにずいぶんと高くなってしまった身体には少し窮屈そうな、中等部の制服。 春が来れば僕たちはこの制服を脱いで、高等科のブレザーを着ることになる。 否応なく僕たちの上に時は流れ、子供のままでいたいと、いくら願っても僕たちは大人への階段を確実に上っていくのだ。 一段一段、ゆっくりと踏みしめながら、時にはかけのぼるようにある日突然に大人への階段を上っていく。 近隣でも格好いいと評判の高等科の制服。 研くん、似合うだろうな、きっと・・・・・・・ 体格も性格もこの三年間で、すごく逞しくなってしまった研くん。 相変わらず華奢で小柄な僕はどこかにポツンと置いて行かれてしまいそうだよ。 |