Crystals of snow story

*10年分のチョコレート*

2001バレンタイン企画

「どうしたんだ、鈴?さっきから黙りこんじまって」

「あ、ごめん・・・・・・なんでもないんだ」

僕はゆっくりと首を横に振った。
研くんの肩越しにそれた視線が、研クンをちらちら見ている、近隣の女子学生の姿を捉える。

今はまだ、研くん自身が気づいていないけど、彼のさわやかな男っぽさはとっても女の子達を惹き付けるんだ。

今だって、少なくても3人の女子学生がチョコレートを渡す、タイミングを窺っている。

「ねぇ、ちょっときて」

混雑している駅のホームで僕は研クンの肘を掴んで自動販売機が並ぶもの影へと引っ張った。

「な、なんだよ?」

「これ・・・・・」

鞄から取り出した包みをそっと研くんの手の中へ滑り込ませた。

「チョコ?」

「うん」

「毎年、悪いな」

研クンは渡した箱を素早くバッグに忍ばせると、にっこりと笑ってくれた。

「学校で渡すと廻りがうるさいでしょ。だから、こんなところでごめんね」

「鈴の親衛隊にみっかたら、さすがにやばいよな」

冗談めかして研くんは肩をすくめた。

ごめんね、今のは嘘っぱち。
学校で、だれがどう思おうと僕は構わない。
ただ、いつ、あの子たちが声をかけてくるかわからないから・・・・・
僕が一番最初に研くんに渡したいから。

「あ、電車きちゃった、いこ」

そのまま、研クンの手を取って、僕はホームに着いた電車に飛び込む。実際は駅員さんにぎゅうぎゅう押し込められるんだけど。

2月14日。今日はバレンタインデー。

僕が研くんにチョコレートを渡す日。



「大丈夫か?鈴?」

「うん、へっき・・・・」

押し寿司みたいにぎゅうぎゅう詰めの車内で、研くんはたいてい僕を他の人から護るように立ってくれる。

おかげで、ドアと研くんに挟まれた僕の廻りには誰も近づくことは出来ないんだ。

密着すると僕はすっぽり研くんの胸の中に収まってしまい。肩口におでこを寄せたなんだか、恥ずかしい形になる。

「今年でちょうど10個目だな、サンキュ」

僕の耳朶をあたたかい吐息がかすめ取るように、研くんが囁いた。

「覚えてたの?10回目だって?」

思わず、驚いて間近にある研クンの顔に聞き返してしまった。

「そりゃな。俺さぁ、ずっと、包んであった包装紙とか取ってあるんだぜ。それが今朝数えたら9枚有ってさ、ああ、今年で10年なんだなぁって朝から思いだしてた」

研くんが笑った拍子に、大きく電車が揺れて、僕は研くんにぎゅっと抱きついた。

「なんか、僕、うれしい」

このまま放したくない・・・・・・
覚えていてくれたなんて・・・・なんだか、胸があったかい。

「おい、鈴・・・・・」

照れくさそうにそう呟いたくせに、研くんの腕はしっかり僕の背中を抱いてくれた。

「覚えててくれて・・・・ありがとう」

僕の初めてのバレンタインチョコ・・・・・・・・

ほろしょっぱい、涙味のチョコレート。

三粒目も食べる?