Crystals of snow story

純白の花衣

もう一度だけ、ささやいて第二部

( 6 )

 


「ヤダ!ヤダァ!んっ・・・・ん」

闇雲に暴れ出した鈴の身体を押さえ込んだまま、抗議の言葉を唇で塞いだ。

抗う腕は二つにまとめて封じ込めて、片手だけで外そうとして俺は鈴の着ていたシャツのボタンをいくつかはじき飛ばしてしまった。

貪るような口づけをしながら、性急な動作で俺の指が鈴のお腹から胸に這い、今までのなめらかな肌とは明らかに違う、ささやかな突起に触れたとき、体中にゾクゾクっと電気のような痺れが走った。

鈴・・・・・・・

ああ、なんで俺、今までお前に触れずにいられたんだろう・・・

厳密に言えば触れずにいたと言う言葉はおかしい。

俺は、ただの幼なじみだった頃も、恋人になった後も始終鈴の身体には触れていたからだ。
ただ、それは、頬や唇や手と言った誰もが表から見ることの出来る場所で、その他の場所は制服だとか普段着だとかの鎧に覆われていた。

たった、一枚の布きれを取り除くだけで、鈴の柔肌がもたらす感触がこんなにも俺を惑わすなんて・・・・・・・・・・

どうして触れずにいられたんだろう・・・・

こんなにも愛しいのに・・・・・・

小さな尖りをなぞるように何度も確かめるとそのたびに俺に組み敷かれている鈴がビクリと身体を震わせて、とうとう堪えきれないような小さな声で啜り泣きだした。

俺はようやく唇を外し、啜り泣いている鈴の涙を嘗め取った。そうした小さなことにさえも鈴は細い身体を震わせた。

そんな、鈴が可愛くて、愛しくて俺は上体を持ち上げて鈴の顔を真上から見下ろすように覗き込んだんだ・・・・・・

え・・・?

す、鈴・・・・・

なんて、顔してるんだよ・・・・

恥ずかしくて泣いてるんだと思ってた・・・・

まさか・・本気で嫌がってるのか?

ささやかな抵抗なら封じ込めてしまおうと思っていた。
もう、待つのも待たされるのも我慢できないほど、俺はせっぱ詰まっていたからだ。
今日一日色んなことを考えてしまったせいか、今、鈴を抱けなかったら、一生、本当の意味では鈴を手に入れることが出来ないとまで、思い詰めていた。

だけど・・・・・・・

そこには明らかに怯えている鈴がいたんだ。
青ざめて、本当に辛そうに声を殺して泣いている。
まるで通りすがりの強姦魔にでも襲われたみたいに。

俺は・・・・俺は、こんなの、望んでたんじゃない・・・

さっきまで俺を支配していた高揚感が急激に下降した。

「鈴・・・泣くなよ・・・・な?」

どこか痛くしちまったか?

俺、お前を怖がらせちまったのか?

それとも・・・・・

俺に抱かれるのは・・・・そんなにもイヤなのか?

沸き上がった苦い思いを消しさるように飲み込んで、力ずくで押さえつけていた身体からそっと身を引き離すと、拘束していた両手を放した。

両手に自由が戻ると、鈴は傷ついたような視線で俺を一瞥した後、くるりと横を向いて身体を丸め、伏せた腕の中で激しく泣きじゃくり始めたんだ。

ちょっと・・・乱暴だったから・・だよな。

だから、恐かったんだよな?

俺が嫌なんじゃないよな・・・・・

「ご、ごめん・・・鈴・・・俺・・こんなつもりじゃ・・ごめん」

情けないけど、どうしていいのかわからなくて、俺は突っ立ったまま拳を握りしめた。両手にはさっきの感触が生々しく残っている。

「わかってる・・・」

「え・・・?」

「わかってるから、もう・・・いい・・」

「な・・・なんだって?なにがわかってるんだ」

前にも、同じことを言われやしなかったか?

「・・帰って・・」

必死にいつそう言われたのか思い出そうとしている俺に、小さいけど、ハッキリとした声で鈴は俺に向かって言った。帰れと・・・・

「鈴・・・ごめん・・俺・・・お前の言ってることわかんねぇ・・・・・だから今帰れなんて言わないでくれよ」

鈴の態度は頑なに俺を拒否しているようで、今かえっちまったら、取り返しの付かないことになるような気がした。

「鈴・・・・、もう乱暴なことはしないから、頼むよ、鈴・・顔を見せてくれよ」

「イヤ!お願いだから、帰ってよ!」

「鈴・・・」

顔を塞いでいる腕に手を掛けようとした途端、汚いものでも振り払うかのように、ピシャリとはねのけられた。

やっと俺に向けられた鈴の瞳は今まで見たことがないほど冷たい色を浮かべていた。

目の前が、サッと紅色に染まった。

「俺に・・・・俺に触れられるのがそんなにイヤなのかよ・・・」

やめろ・・・・

「俺のことが好きだなんて、嘘っぱちじゃないか」

これ以上言うな・・・・

「お前は結局、俺のことなんかなんとも思っちゃいねぇんだ」

やめろ・・・

やめろ・・・・・

「お前に振り回されるのは、もう、うんざりだよ!!」

俺が酷い言葉を吐きかけても、鈴はただじっと俺を見つめているだけだった。

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