恋人シリーズ
***想い出の恋人***
[3]
その日も、その次の日も、光一朗からの電話は掛かってこなかった。 もう電話なんて掛かってこないさ、なんて、自分自身に呟いたりしてたけど、俺はきっと、待っていたんだとおもう。 認めたくはないけど、切実に、光一朗の方から紳司さんと偶然再会して、懐かしさに、何回か会って話したんだよと、何でもないことのように話してくれるのを・・・・・ 俺に見られたなんて気づかないうちに、本当のことを、単なる偶然だったってことを話して欲しかった。 じゃないと・・・・ 作為的に会っていると勘ぐるしかないからだ。
伸司さんと会っていることを隠すことも。 東京に帰ってきていたことすら、俺に話さないことも。 すべては、みんな、作為的に光一朗が仕組んだことだと、思うしかなくなっちまう・・・・・・ だから、だから、俺は、本当に切実に心から光一朗からの電話を待っていたんだとおもう。ただひたすら、じっとしたまま・・・・ だけど、電話は掛かってこなかった。 あれほど頻繁に掛かって来ていた電話が、俺が掛けてこいって言ったら、無理をしてでも掛けてきてくれていた電話が、掛かって来なかったんだ。 紳司さんが、そばに居るから俺に電話を掛ける必要はないのだと・・・・・最後にはそう結論づけるしかなかったんだ。
結局、五日が過ぎた頃、俺は携帯の電源を切って、机の一番下の引き出しにしまい込み、これで良かったんだと思うことにした。 正直、電話を待っているのは精神的にすごく疲れたし、今更、電話が掛かってきてもきっと全部作り話に聞こえるような気がしたからだ。 その間、毎日、なんだかんだと俺の様子を窺いに来てくれる類さんと、他愛の無い話をしたり。俺の進路のことを話したり、俺は少しずつ、自分のペースを取り戻していけるような気がしていた。 「焼き肉ね、まけしとけって」 「やったぁ!焼き肉ぅ♪」 「分かったら、その前に点数ちゃんと上げろよ。点数あがんなきゃ奢ってやれないんだからね」 俺、光一朗がいなくても同じようにメシ食って、学校行って、テレビ観て、笑って・・・・・・・なぁんだ・・・・・なんにも変わってないじゃんか・・・・・ 光一朗のマンションの寝室で初めて伸司さんの存在を知ったときの辛さに比べたら、今度のショックはずっと軽いような気がしていた。 心のどこかで、こうなることを知っていたかのように、俺はあの日、類さんの前でほんの少し泣いただけで、携帯の電源を切るときも、引き出しの奥にしまい込むときも涙なんて出なくて、むしろ、なんだかホッとしたような不思議な気分だった。 光一朗を失うことに 光一朗が俺の顔をじっと切なそうに見るたびに 鏡に映る俺とよく似たあの人の影に気づくたびに 怯えなくてすむんだと・・・・・・
普段、勉強時間にはなるだけ邪魔はしないようにしてくれる母さんだけにチラリと壁に掛けてある時計を見遣って時間を確認してから、何かあったのかと類さんも俺の横のイスから腰を上げた。 俺の気持ちが、その声でザラリとざわついた。 こんな光一朗は知らない・・・・・・・・ 俺は初めて、光一朗の不機嫌を通り越して、剣呑な声ってのを聴いたんだ。 |