Crystals of snow story
*アルカデアをさがして*
[2]
僕は年が離れていたせいか、兄の友人たちに可愛がられていた。
たぶん、彼らにとって僕はたんなる物珍しいおもちゃ状態だったのかもしれないけれど、彼らは良く僕と遊んでくれた。
その中でも、一番背が高くて逞しい琢磨さんが僕は一番好きだった。
僕をからかう他のお兄さんたちと違って、琢磨さんは僕の話をいつもちゃんと聞いてくれたし、時間のあるときは僕の宿題を見てくれたりしていたんだ。
だから、僕も琢磨さんには良く懐いていた。
もちろん透兄さんとは違うけど、もう一人優しくて強いお兄さんがいるようなそんな感じだった。
今思えばそのころ確か兄は何日かふさぎ込んでいたような気がする。
その日僕は本当に幸せだった。
前々から欲しかったマウンテンバイクを両親は用意してくれていたし。
兄からは朝一番に、最高の笑顔と高価そうな腕時計を送られた。
優しかった兄はあの日を境に狂ってしまった。
ううん、本当はもっと前から歯車は少しずつずれていたのに
幼かった僕は気づけなかったんだ。
その日の夕方、琢磨さんがうちに立ち寄った。
「兄さんなら、今ちょっと出かけてるよ?」
玄関先で僕がそう言うと、琢磨さんは少し照れたような笑みを浮かべた。
部活の帰りなのだろう、初夏の風に琢磨さんの身体から汗の匂いがする。
「いや、今日は純くんに会いに来たんだ。
今日誕生日なんだろ?いつもお邪魔してるから、って言っても今日知ったばっかりで大したもの買えなかったんだけど」
ごそごそとスポーツバックから取りだした包みを僕の手のひらに載せた。
「え?僕にくれるの?見てもいい?」
こっくりと頷いた、琢磨さんにありがとうと言いながら包みを開くと中には学校の購買でかったのだろう、細々としたスティショナリーグッズが入っていた。
「な、たいしたもの入ってないだろ?」
「ううん。すっごく、嬉しい!僕ね、新しいシャーペン欲しかったんだ。ありがとう、琢磨さん」
中身よりも琢磨さんがわざわざ僕にプレゼントしてくれたってことが嬉しくて、僕は兄にするようにギュッと琢磨さんに抱きついた。
「来年はもっとましなもの買ってくるよ」
琢磨さんも、そんな僕の髪をくしゃっと撫でてくれたんだ。
本当に幸せだった。
大好きな人たちから、お祝いを貰って・・・・・・・
そう、琢磨さんの腕から笑いながら身体を離すときに、あの瞳を見てしまうまでは・・・・・・・・
僕の背筋がゾッと凍った。
琢磨さんの背後に綺麗な鬼を見つけて・・・・・・
琢磨さんが帰ると同時に兄は乱暴に僕を部屋に連れ込んだ。
僕の腕から、袋を取り上げると激しく床にたたきつけた。
プラスチックの欠片があたりに飛沫する。
「に、兄さん!?なにするの?」
慌ててかき集めようとした僕は強い力でベッドに突き倒された。
気が付いたら僕は兄に組み敷かれていた。
何が起こったのかわからなかった。
ただ、聞き取れないほどの低い声で兄は何度も「お前が悪いんだ」と何度も繰り返していた。
怖かった。
優しかった兄が突然鬼に変貌してしまったような恐怖と、貫かれ焼かれるような激しい痛み・・・・・・
叫び声すらも封じ込められ、涙でぐしょぐしょになりながら僕は意識を手放していく。
薄れゆく意識の中で「お前は汚れている」と何度も口汚くののしられた所為で植え付けられた、言いようのない罪悪感。
「誰にも言うんじゃないぞ!」
すべてが終わって、兄は僕を置いて部屋を出ていくときに、吐き捨てるようにそう言い放った。
僕は汚れてしまった・・・・・
こんな事誰にも言えない・・・・・
誰にも言えない秘密が、僕と兄の間に横たわる。
普段両親や、友人のいる前では兄は相変わらず僕に優しく接してくれた。
時に夜に見るあれは悪夢ではないかと思うほどに。
しかし、その幻影はうち砕かれる、部屋に忍び込んでくる兄は、決して夢ではない重量感を持って僕を蹂躙していくのだから。
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