Crystals of snow story
*アルカデアをさがして*
[3]
あれから、数年の歳月が流れた。
兄と数人の友人はそれぞれ別々の道を歩み、四年生大学の経済学部に進んだ兄と、実家の病院を継ぐために医大に進んだ琢磨さんはだんだんと疎遠になっていき、彼が我が家に寄ることもほんとにまれになってしまっていた。
なのに・・・・・・・・
彼、琢磨さんは偶然にもこの春から僕の学校の担当医になったのだ。
そのことを知ったのは、年に一度の内科検診があった日。
何気なく、検診の部屋に入った僕は、一瞬心臓が止まるかと思った。
だって、だって・・・・・・
真っ白の白衣を着た琢磨さんが、こんな所にいるなんて思いもしなかったんだから。
逢えなくなっても、ずっと・・・・・僕の心の中にいた人。
誰よりも僕の中で輝いていた、素敵な人・・・・・・
綺麗な、綺麗な、僕の想い出の人・・・・・・
同級生たちが順番に上半身のカッターを脱いで聴診器を持つ先生の所へ行く。
僕は恥ずかしさに顔を伏せたまま、琢磨さん違う先生の列に並んでいたのだけど、あと少しと言うところで当の琢磨さんに手を引かれて診察台の前に立たされたんだ。
「久しぶりだね、透は元気?」
爽やかな笑顔を僕に向けながら琢磨さんは僕の胸に聴診器をピタピタと移動させる。
ああ、きっと・・・・・僕のことを変だと思ってるに違いない。
だって、僕の胸は、聴診器なんて当てなくても聞こえてしまうほど、ドキドキと高鳴ってしまってるんだもの。
「あ、はい・・・・・元気です」
真っ赤になってしまって、俯いたままそう答えた僕に、琢磨さんは小さな声で囁いた。
「鎖骨の下にキスマークだなんて、純くんもすみに置けないな」
「えっ!?」驚いて、自分の胸を覗き込んだら、
「なんだ?心当たりでもあるの?あはは、じょうだんだよ」
と笑われてしまった。
僕のドキドキはますます止まらない。
本当に付いているのだと、琢磨さんに見つけられてしまったのだと思ったのだから。
キスマーク、お願いだから付けないでと懇願しても兄はたまに許してくれず、気づかないうちにいくつか後が残っていることがあるからだ。
真っ赤になってうろたえている僕に、
「真っ赤になっちゃって可愛いなぁ、純くんは。僕がキスマーク付けたくなるよ」
冗談とも本気とも取れる口調で、琢磨さんは僕にウインクをしてくれたんだ。
ああ・・・・
本当に琢磨さんにキスされたらどんな感じがするんだろう。
僕はその日1日夢見心地で過ごしていた。
「あ・・・・や・・ヤダ、兄さん」
両親が寝静まった深夜、兄はこっそり僕のベッドへと忍び込んできた。
兄が来るのはだいたい週に1.2度、頭が良くて人当たりがいい、両親自慢の兄が何故弟の僕にこんな事をするようになったのか、本当の理由は僕には未だに分からない。
初めての時は本当に唐突に訪れたのだから。
でも、今日は嫌だった・・・・・
今日だけは抱かれたくなかった。
だって、琢磨さんが僕のことを可愛いって言ってくれたのに、僕はまた兄に汚されてしまう、そう思うと思わず涙がぽろりと零れた。
「お願い、兄さん・・・今日は・・」
僕の懇願など、聞く耳を持たない兄は煩いと吐き捨てて、乱暴に僕のパジャマを剥いでいく。
「・・・ん!」
噛みつかれるような乱暴なキス。
怯えて奥で小さくなっている僕の舌を、兄は顎に置いた指に力を込めて無理矢理自分のもので絡め取る。
「ん・・・っっっ、ぅぅく・・」
琢磨さんのキスはきっともっと優しい・・・・・
激しく苦しいキスの合間にフッとそう思ったとたん、身体の中心がズクンと疼いた。
「はっ・・・や・ダ・・」
甘い痺れが身体を走り始める、こんな事は初めてだった。
兄に直接激しく扱かれて、無理矢理いかされる事はあったけれど、愛撫やキスでこんな風になるなんて・・・・・・
胸の突起を弄っている兄の指からも切ないほどの快感が押し寄せてくる。
琢磨さん・・・・・
ああ・・・僕・・・・
今、僕を組み敷いているのが、彼であればいいのに・・・・
僕の異変に気づいたのか、兄が何とも言えない不可思議な表情で僕をのぞき込んできた。
「純・・・・・」
「や・・・・に、にいさん、や・・・・」
快感に溺れそうになりながら、内なる快楽に向かって必死に抵抗する僕を兄は面白そうに、眺めている。
クククッと喉を鳴らし笑う兄は、暗闇の中でも美しく白く浮き上って、僕を蔑むように見下ろしていた。
「いやらしいな、純は・・・・・」
耳元で囁かれた兄の睦言に、サッと身体から血の気が引いた。
僕はなんて罪深いことを望んでいるんだろうって・・・・・
僕が、琢磨さんに抱いているのはもっと、綺麗な気持ちだったはずなのに。
いつの間にか兄と琢磨さんをだぶらせて、僕の身体は愛撫のもたらす愉悦に歓喜している。
「やっ・・・・やぁ・・・兄さん!」
こんな・・・・
こんなことを・・・・・
琢磨さんに知られたら・・・・・
生きてなんて行けない。
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